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夕方の受付で、新人さんが手を止めてこちらを見る。 「すみません、これってどうするんでしたっけ」。 先週も教えた所です。
つい、自分でやったほうが早いと思ってしまう。 でも自分で全部やるほど、仕事は減らないまま。 部下を持つと、こんな場面はありませんか?
教えたはずなのに、また同じところで止まっている……。私の教え方が悪いんでしょうか。

この記事では、部下育成の方法を「任せ方・教え方・ほめ方」の3つに分けて整理します。 研究で分かっていることと、私が薬局の現場で経験したことを分けてお話しします。 最後に、そのまま使える育成計画のひな形の表も置きました。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
部下育成の方法の結論|任せる→振り返る→次を任せる
先に結論です。 部下は「教えた量」より「任せて、一緒に振り返った回数」で育つ、と私は考えています。
流れは3つだけです。
- 任せる: 今できることより、少しだけ背伸びが要る仕事を渡す
- 振り返る: 終わった後に短く話し、うまくいった所と次に変える所を言葉にする
- 次を任せる: 振り返りで出た教訓を使える、次の仕事を渡す
この順番には、研究の支えがあります。 ただ、どの研究も「こうすれば育つ」と約束するものではありません。 傾向として見えていること、と受け取ってください。


いきなり全部は要りません。まずは「振り返る」を1回足すところから始めてみてください。
部下育成がうまくいかないのは、あなただけではない
育成に悩んでいるのは、あなたの職場だけではありません。 国の調査でも、多くの職場が育成に問題を感じています。
厚生労働省が、企業・事業所・働く人に能力開発の実態を聞いた調査があります。 事業所の調査では7,194か所が対象で、54.2%が答えました。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年)(2026年10月20日閲覧)
その結果がこちらです。
- 正社員に計画的なOJTをした事業所は60.6%
- 正社員以外にした事業所は25.1%
- 能力開発や人材育成に、何らかの問題があるとした事業所は80.1%
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(2026年)(2026年10月20日閲覧)
OJTとは、仕事をしながら計画を立てて教えることです。 正社員以外への計画的な教育は、4分の1ほどにとどまっています。 パートさんが多い職場ほど、気になる数字ですよね。

これは実態を数えた統計です。 「OJTをすれば育つ」という効果を示したものではありません。 それでも、8割の事業所が悩んでいると分かると、少し気が楽になりませんか?
部下育成の土台|経験学習と「70:20:10」の受け取り方
人は、仕事の経験から多くを学びます。 経験して、振り返って、教訓にして、次に試す。 この流れで学ぶという考え方を、経験学習と呼びます。
経験から学ぶ理論を整理した論文があり、この記事の「任せる→振り返る→次を任せる」はその考え方をもとにしています。
出典:Kolb, A. Y., & Kolb, D. A.(2005)「Learning Styles and Learning Spaces: Enhancing Experiential Learning in Higher Education」Academy of Management Learning & Education
これは学びの順番を示した考え方です。 効き目を数字で測ったものではありません。
それと、育成の話でよく出てくる数字があります。 「職場の学びは、経験が7割・人から2割・研修が1割」という70:20:10 です。
ただ、この比率には注意が要ります。 この説の根拠を、5つの分野の文献でさかのぼって確かめた論文があります。 結論は「70%の根拠は弱く、この比率に頼った人材育成の方針は誤りやすい」というものでした。
出典:Clardy, A.(2018)「70-20-10 and the Dominance of Informal Learning: A Fact in Search of Evidence」Human Resource Development Review
70:20:10 は「経験・人・研修を組み合わせる」ための目安です。測って確かめた比率ではないので、数字どおりに時間を割り振らなくて大丈夫です。
だからこの記事では、比率ではなく流れで考えます。 「経験させて終わり」でも「研修で教えて終わり」でもない。 経験の後に、人と一緒に振り返る時間をはさむ、という考え方です。
部下の任せ方|「少しだけ背伸び」の仕事を選ぶ
任せ方の答えは、難しすぎず、簡単すぎない「少し背伸び」の仕事を渡すことです。
管理職60人の、仕事の経験225件を集めた研究があります。 仕事の難しさと、リーダーとしての力の伸びの関係を調べたものです。
分かったのは、仕事を難しくしても、そのぶん伸びが増えるわけではない、ということでした。 難しさが上がるほど、伸びの増え方はだんだん小さくなっていたんです。 ただ、意見や指摘(フィードバック)をもらえる環境では、その頭打ちが和らいでいました。
出典:DeRue, D. S., & Wellman, N.(2009)「Developing Leaders via Experience: The Role of Developmental Challenge, Learning Orientation, and Feedback Availability」Journal of Applied Psychology
少人数の管理職本人を調べた研究なので、言えることには限りがあります。 それでも「任せるなら、振り返りとセットで」という流れの支えになります。

でも、任せて失敗されたら患者さんに迷惑がかかりますよね。


医療の職場ではそこが一番こわいですよね。だから「失敗しても取り返せる範囲」から任せて、最後の確認は上司が持つ形にすると安心です。
任せる時は、次の3つを先に伝えると迷いが減ります。
- 何のための仕事か(目的)
- どこまで自分で決めてよいか(任せる範囲)
- 困った時に、いつ・誰に聞けばよいか
年上の部下に任せる時は、伝え方に少し工夫が要ります。 詳しくは年上の部下との接し方の記事にまとめています。
部下の教え方|仕事のあとに5分の振り返りを
教え方で大事なのは、説明を増やすことではありません。 仕事が終わった後に、短く一緒に振り返ることです。
さっきの経験学習でいうと、「振り返る」と「教訓にする」の段です。 任せっぱなしだと、経験が経験のまま終わってしまいます。 背伸びの仕事ほど、フィードバックがあると伸びが頭打ちになりにくい、という研究ともつながります。
振り返りは、雑談のようだと話が散らかります。 だから、聞くことを3つに決めておくのがおすすめです。
5分の振り返りで聞く3つ
- 今日、うまくいったことは何でしたか?
- 次に変えるとしたら、どこですか?
- 次は、どこまで自分でやってみますか?

私の1社目の薬局には、薬を集める時のルールがありませんでした。 みんな記憶頼りで、取り違えや探す時間が多かったんです。
そこで、すべての処方せんのコピーを取って書き込む形にしました。 似た名前の薬の注意や、確認した人の名前などを書いておきます。 すると取り違えと探す時間が減り、新人が早く仕事を覚えるようになりました。
紙の上で、スタッフどうしが言葉を書き合うようになったのも大きかったです。 今思うと、毎日の小さな振り返りが紙の上で起きていたのかもしれません。
部下のほめ方・伝え方|人柄ではなく「仕事のやり方」を
ほめ方の答えは、人柄ではなく、仕事のやり方について具体的に伝えることです。
フィードバックの効果を調べた研究を、まとめて分析した論文があります。 集めた効果の値は607件、観察は23,663件です。
平均すると、フィードバックは成果を上げていました。 でも、3分の1を超えるケースでは、逆に成果が下がっていたんです。
著者の説明では、本人の注意が仕事から「自分自身」へ移るほど、効き目が落ちます。 「自分がどう評価されたか」に気持ちが向くと、仕事そのものが置き去りになるわけです。
出典:Kluger, A. N., & DeNisi, A.(1996)「The Effects of Feedback Interventions on Performance: A Historical Review, a Meta-Analysis, and a Preliminary Feedback Intervention Theory」Psychological Bulletin
30年前の研究で、学校や実験室の研究もまじっています。 この説明も著者が出した理論で、全部が確かめられたわけではありません。 それでも、伝え方を考えるヒントになります。
| 伝え方 | 例 | 相手の注意が向きやすい先 |
|---|---|---|
| 人柄をほめる・責める | 「さすがだね」「なんでできないの」 | 自分の評価 |
| 仕事のやり方を伝える | 「確認の声かけで、取り違えが防げたね」 | 次の仕事 |

認めることと、同じ職場で働き続けることの関係を調べた調査もあります。 3,400人超の働く人を、2022年から2024年まで2年間追いかけたものです。 質の高い承認を受けていた人は、その職場を辞めていた割合が45%低かったそうです。
出典:Gallup・Workhuman「Recognition and Retention: New Evidence of Recognition's Long-Term Impact」(2024年)(2026年10月20日閲覧)
これは観察した結果で、ほめたから辞めなかったという因果までは分かりません。 一緒に調べた Workhuman は、承認の仕組みを売る会社です。 その点も踏まえて受け取ってください。
私は1社目の1年目から、スタッフのいいところを口に出すことを続けました。
クレームを受けた時も、謝るだけでなく「たくさんうちの薬局を見ていただきありがとうございます」と感謝で返しました(ふつうのご意見の場合です。怒鳴る・居座るなどの迷惑な行為は、一人で受けず、会社として対応するのが基本です)。
大きな改善ができなくても、スタッフから「先生って何でも助けてくれますね」と言ってもらえたんです。

人は自分の苦労を重く、周りの苦労を軽く見がちです。苦労を分かろうとする姿勢が、信頼になりました。
やる気が落ちている部下への関わり方は、部下のやる気がない時、上司がやってはいけないことでくわしく書いています。
未経験の医療事務スタッフが育つまで|私の現場の実例
ここからは、研究ではなく私が現場で経験したことです。
6年目に転職した店の課題は、スタッフの教育と赤字の黒字化でした。 未経験の医療事務スタッフが多い店だったんです。 着任前は、事務スタッフが次々に辞めていた店でもありました。
その店で、土曜も開けることが条件の、店の収入になる取り組みに挑戦しました。 私は経営者に「私が中心になって未経験のスタッフを育てて、取ります」と約束しました。 その代わり、土曜の出勤には別に手当をもらう約束も先に交わしています。
未経験の人ばかりで、本当に回るようになるんですか?


すぐにではありません。でも転職から3年目の8年目には、私が休んでも回るほどになってくれました。
8年目のある日、スタッフにこう言われました。 「ほりけんさん、ゆっくり休んでてください」。 私がいなくても仕事が回るほど、みんなが育ってくれていたんです。
スタッフが育ったことで、店はこう変わっていきました。
- 私が患者さんとの話に、時間をたっぷり使えるようになった
- 通院日でなくても、相談に来てくれる患者さんが増えた
- 5年後には、産休や育休の代わりの人を、スタッフが自分の知り合いから紹介してくれるようになった
地域から愛される薬局に育っていったと感じています。
ただ、最初からうまくいったわけではありません。 1社目では、私の失敗もあって10人以上が辞めました。 そこから変えていったことで、最後の2年は辞める人がいませんでした。
私自身の仕事の考え方は、シンプルです。 「やったことがないことでも、調べながらやれば大丈夫。誰だって初めてはある。怖いのは1回目だけ」。
職場全体で人が辞めにくくなる条件は、医療・薬局の離職率を下げる方法で研究と一緒に紹介しています。
部下育成計画のひな形|そのまま使える表
育成計画は、立派な書類でなくて大丈夫です。 「何を任せて、いつ振り返るか」が1枚で見えれば十分です。
次の表は、医療事務の新人さんを例にしたひな形です。 仕事の中身は、あなたの職場に合わせて入れ替えてください。
| 時期 | 任せる仕事(少し背伸び) | 先に伝えること | 振り返りの問い | 次に任せること |
|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 受付と会計 | 目的・困った時に聞く相手 | 迷った場面はどこでしたか? | 処方せんの入力 |
| 2〜3か月目 | 処方せんの入力 | 確認してから渡す範囲 | 確認で気づいたことは? | 在庫の発注の手伝い |
| 4〜6か月目 | 在庫の発注 | 自分で決めてよい範囲 | 次に変えたい所は? | 新人に1つ教える役 |
| 半年以降 | 新人に1つ教える | 教える時に見せる手本 | 教えて分かったことは? | 本人と相談して決める |
使う時のコツは3つです。
- 1つの時期に任せる仕事は1つか2つにしぼる
- 振り返りの日を、先にカレンダーに入れておく
- 「次に任せること」は、本人と一緒に決める
あなたの職場なら、最初の行に何を入れますか? いま頭に浮かんだ仕事が、たぶん一番の候補です。

表を全部埋めなくて大丈夫です。最初の1行と、振り返りの日だけ決めれば動き出せます。
よくある質問
忙しくて、振り返りの時間が取れません
1回5分で十分です。 閉店前の片づけの後や休憩の前など、勤務時間の中の決まった時間に、3つの問いだけ聞く形にすると続けやすくなります。
何度教えても覚えない部下には、どうしたらいいですか?
まず、任せる仕事が難しすぎないかを見直します。 一度に任せる量を減らし、できた所を具体的に伝えるほうが近道になることがあります。
ほめるのが苦手です
ほめ言葉を探さなくても大丈夫です。 「在庫を数えてくれて、助かりました」のように、してくれた行動と感謝を伝えるだけで十分です。
まとめ|明日の朝から変わること
部下育成の方法は、任せる→振り返る→次を任せる、の流れにまとめられます。
- 任せ方: 少しだけ背伸びが要る仕事を、目的と範囲と一緒に渡す
- 教え方: 仕事の後に5分、決まった3つの問いで振り返る
- ほめ方: 人柄ではなく、仕事のやり方と感謝を具体的に伝える
育成は、上司が一人で背負うものではありません。 部下が育つと、上司は手が空き、患者さんに向き合う時間が増えます。 経営者にとっても、人が辞めにくく、店が回る職場は大きな助けになります。
明日の朝、新人さんに1つだけ仕事を任せてみてください。 そして夕方、「今日うまくいったことは何でしたか?」と聞いてみる。 その5分が、あなたの職場の新しい日常の始まりです。
マネジャーの仕事を、成果を生む仕組みとして考えたい人にはHIGH OUTPUT MANAGEMENTがあります。 部下の仕事への慣れ具合に合わせて、関わり方を変えるという考え方も出てきます。
初めて部下を持った人には、新任の管理職向けの入門書の部下をもったらいちばん最初に読む本もあります。
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