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採用してもすぐ辞めてしまう……。うちの職場、何が足りないんでしょうか。

やっと人が入ったと思ったら、また退職の相談。 そのたびにシフトを組み直して、残った人の負担が増えていく。 医療の職場の管理職なら、一度は経験がありますよね。
この記事では、研究や調査で「辞めたい気持ち」や働く意欲とのつながりが見られた、職場の5つの条件が分かります。 それぞれに、私が現場で続けてきたことを1つずつ並べました。 研究の話と私の経験は、分けてお話しします。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。
人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。 管理職として、離職率5年間ゼロという記録も持っています。
医療・薬局の離職率を下げる方法の結論|辞めたくならない職場の5つの条件
先に結論です。 離職率は、引き止めではなく「辞めたくならない職場」で下げる。
研究や調査で「辞めたい気持ち」や働く意欲とつながっていた職場の条件を、5つに分けました。 上司との関係・何でも言える空気・休みの取りやすさ・公平さ・成長の実感です。
| 辞めたくならない職場の条件 | 研究で分かっていること | 私が続けた実践 |
|---|---|---|
| 1. 上司との関係 | 上司の「ありがとう」で、働く量が増えた実験がある | 事務スタッフへの感謝を行動で示し続けた |
| 2. 何でも言える空気 | 言いやすい職場の看護師は「辞めたい」が少なかった | 雑務ではなく環境作りを拾った |
| 3. 休みの取りやすさ | 年休の取りやすさが、5年目の看護師の「辞めたい」と関係していた | 有給を自分が先に取った |
| 4. 公平さ | 仕事の割り振りの偏りが「辞めたい」と関係していた | 利益を出してから、待遇の交渉をした |
| 5. 成長の実感 | 新人の退職理由に、適性や実践能力への不安が多く挙がった | 未経験のスタッフを育て、任せた |

ただし、どの研究も「関係がある」までしか言えません。 「これをすれば辞めなくなる」と約束するものではない点は、先にお伝えしておきます。
それと、退職は働く人の権利です。この記事は、辞める自由を奪う話ではありません。

全部を一度にやる必要はありません。あなたの職場で、いちばん手薄な条件を1つ選ぶところから始めてみてください。
医療の職場の離職率はどのくらい?|看護職の数字
まず、医療の職場でどれくらいの人が辞めているのかを見ておきます。 日本看護協会が全国の病院に聞いた調査があります。 病院8,022施設に送り、3,502施設が答えたものです。
2024年度の離職率は、正規雇用の看護職員で11.0%でした。 新卒で採用した人は8.4%、経験者として採用した人は16.1%です。
出典:日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年)/労働政策研究・研修機構のウェブ記事による要約(2026年4月8日掲載・2026年10月6日閲覧)
ざっくり言うと、この1年でおよそ10人に1人が辞めていた計算です。 これは看護職の数字で、薬局やクリニックの数字ではありません。 それでも、あなたの職場の感覚と比べて、どうでしょうか?
経験者として入った人の数字が高いのは、気になるところです。 中途のスタッフが辞める前に見せやすい変化は、医療・薬局のスタッフが辞める前兆の記事でくわしくまとめています。
条件1 上司との関係|感謝を「行動」で伝える
1つ目は、上司との関係です。 上司からの感謝は、言われた側の行動を変えることがあります。
上司の「ありがとう」で、電話の数が増えた実験
米国の大学で、寄付をお願いする電話をかける職員41人を2つの組に分けた実験があります。 片方の組には、寄付の責任者が直接来て「みなさんの頑張りにとても感謝しています」と伝えました。 もう片方の組には、何もしませんでした。
1週間の電話の数を前の週と比べると、増えたのは感謝を伝えた組だけでした。 理由は「自分は大事にされている」という感覚だったと、研究は説明しています。
出典:Grant, A. M., & Gino, F.(2010)"A little thanks goes a long way: Explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior" Journal of Personality and Social Psychology
これは働く量の実験で、離職を測ったものではありません。 それでも、上司の一言で人の動きが変わることがある、と示した研究です。
私の実践|事務スタッフへの感謝を行動で示し続けた
新人の管理薬剤師だったころ、私が配属されたのは、とても忙しい薬局でした。 人間関係はギスギスしていて、正直、最初は戸惑いました。
その中で私が続けたのが、事務スタッフへの感謝を行動で示すことです。 頼るべきところは頼る。その代わり、最後の責任は管理者の私が取る。
口だけで「ありがとう」と言うより、行動で伝えるようにしました。
「ありがとう」は言っているつもりなんですけど、足りないんでしょうか?


言葉も大事です。そこに「この人は自分を守ってくれる」と分かる行動が付くと、伝わり方が変わると感じました。
上司と部下の関係を、もっと広く知りたい人にはまず、ルールを破れが入り口になります。 Gallup 社の調査をもとに、優れたマネジャーが何をしているかをまとめた本です。
条件2 何でも言える空気|心理的安全性と「辞めたい」
2つ目は、何でも言える空気です。 ミスや意見を言っても責められないと感じられる状態を、心理的安全性と呼びます。
言いやすい職場の看護師は、「1年以内に辞めたい」が少なかった
米国の病院の看護師867人に、アンケートで聞いた研究があります。 心理的安全性が高い職場の看護師ほど、仕事に満足していました。 1年以内に辞めるつもりの人も少なく、患者安全の評価も良い傾向でした。
出典:Cho, H., Steege, L. M., & Arsenault Knudsen, É. N.(2023)"Psychological safety, communication openness, nurse job outcomes, and patient safety in hospital nurses" Research in Nursing & Health
ここで測ったのは「辞めたい気持ち」で、実際に辞めたかどうかではありません。 2021年の1回きりの調査なので、どちらが先かも分かりません。
それでも、言いやすい空気が、働く人の気持ちと、看護師が答えた患者安全の評価の両方とつながっていた。 医療の職場には、うれしい結果ではないでしょうか?
私の実践|雑務ではなく「環境作り」を拾った
管理薬剤師になってすぐ、私はレジ締めや掃除のような雑務を手伝おうとしました。 でも事務スタッフから「ここの仕事はいいので、薬剤師の方をしてください」と言われてしまいました(笑)
そこで気づいたのが、私が拾うべき「面倒」は別のところにあることです。 それは、薬剤師どうしのギスギスした空気を取り除いて、働きやすい環境を作ることでした。
- 待合室でクレームの声が聞こえたら、誰より先にカウンターへ出て、スタッフの盾になる
- 薬の知識で言い負かし合うのではなく、相手の負担を減らす行動をする
- 厳しいと感じたスタッフにも、思い切って理由を聞いてみる
厳しいスタッフに理由を聞いた時は、その人の印象ががらりと変わりました。 受け入れられなくても、理解できたら許せることがある。 これは今も大事にしている考え方です。

続けていると、クレームはほとんど無くなり、役員からも「薬局の雰囲気が明るくなった」と言われるようになりました。
心理的安全性をもっと知りたい人には、この分野の研究で知られるエドモンドソン氏の恐れのない組織があります。 言いやすい職場をどう作るかを、まとめた本です。
条件3 休みの取りやすさ|有給を上司が先に取る
3つ目は、休みの取りやすさです。 これは日本の看護師の研究でも出てきます。
5年目の看護師では「年休の取りやすさ」が関係していた
近畿・東海・関東の13病院で、1年目の看護師347人と5年目の看護師240人を比べた研究です。 2007年の調査なので古いですが、日本の看護の研究として紹介します。
論文の要旨によると、どちらの学年にも共通して「辞めたい」と関係していたのは、次のようなものでした。
- 話しやすい雰囲気
- 学ぶ意欲や研修の活用
- 休憩の場所・夜勤の回数・給料
5年目だけに出てきたのが、話し合いの機会・役割を果たせている実感・勤務の柔軟さ・年休の取りやすさです。
出典:渡邊里香・荒木田美香子・鈴木純恵(2010)「若手看護師の離職意向に関連する個人要因と組織要因の検討 ―1年目と5年目の比較」日本看護科学会誌
経験を積んだ人ほど、休みや働き方の自由が気になってくる。 中堅のスタッフを思い浮かべると、うなずけるところがありませんか?
私の実践|誰も有給を取らない職場で、自分が先に取った
私が働き始めたころ、その薬局は誰も有給を取ったことがない職場でした。 上の立場の人からは「有給を取ってもいいけど、評価は下がるよ?」と言われたこともあります。 労働基準法では、有給を取った人の評価を下げるなど、不利益な扱いをしないよう定められています(附則第136条)。
それでも、私が先に有給を取りました。 すると、ほかのスタッフも少しずつ譲り合って休むようになりました。 休めなかった理由は、仕組みよりも気持ちの問題だったんです。
スタッフから「今まで代休を貯めて休んでました。有給取って大丈夫なんですか?」と聞かれた時は、何とも言えない気持ちになりました。
上司が休むと、「あの人はサボってる」と思われませんか?


上司が休まない職場では、部下はもっと休めません。先に休むのも、上司の仕事だと思っています。

ちなみに私自身は、そのあと忙しくなって有給が取れず、退職の時は代休すら使い切れませんでした。 ここは真似しないでください。
条件4 公平さ|仕事の割り振りと待遇を偏らせない
4つ目は、公平さです。 決め方を丁寧にするだけでは足りない、という研究があります。
割り振りの偏りは、丁寧な決め方でも打ち消せなかった
日本の病院で交代勤務をする看護師386人に、オンラインで聞いた研究です。 そのうち161人(41.7%)が「辞めたい」と答えていました。
出典:Kida, R., & Takemura, Y.(2024)"Relationship between shift assignments, organizational justice, and turnover intention: A cross-sectional survey of Japanese shift-work nurses in hospitals" Japan Journal of Nursing Science
「辞めたい」と関係していたのは、仕事の割り振りが不公平なことと、決め方の公正さでした。 そして、決め方を丁寧にしても、割り振りそのものが偏っていれば「辞めたい」は防げない、と研究はまとめています。
つまり、話し合いの形を整えるだけでなく、中身が公平かどうかが大事です。 忙しい時間帯や嫌がられる仕事が、同じ人に集まっていませんか?
私の実践|利益を出してから、待遇の交渉の席についた
待遇を公平にしたくても、管理職の一存では決められないことが多いですよね。 私が学んだのは、交渉の前に「数字」を用意することでした。
人間関係が落ち着いてくると、前に反対されていた店の収入になる取り組みも、受け入れてもらえるようになりました。 ほかにも工夫を重ね、店の利益は年間500万円アップしました。
数字の裏付けがあって初めて、仲間を守る交渉の席につけます。
転職後の会社では、自分の働き方の条件でも同じ形をとりました。 土曜に店を開ける必要が出た時、「私が中心になってスタッフを育て、店の収入を上げます。その代わり土曜の出勤には残業代を別に」と、先に約束を取り付けました。 後から文句を言うのではなく、先に相手の得を約束してから、対価を決めておく形です。
正直に言うと、私には失敗もあります。3年目に「他社から誘われている」と社内で漏らし、昇給はしたものの、信用を大きく失いました。この話は交渉の最後のカードで、気軽に使うものではありません。
条件5 成長の実感|任せて、育つのを待つ
5つ目は、成長の実感です。 「この仕事を続けていけそう」と思えるかどうか、とも言えます。
新人の退職理由には「適性」や「実践能力」への不安が多く挙がった
さっきの日本看護協会の調査では、新卒の看護職が辞めた理由も聞いています。 答えたのは本人ではなく、病院の看護管理者です(複数回答)。

多かったのは「精神的な病気」54.6%、「看護職としての適性への不安」46.6%、「看護実践能力への不安」44.2%でした。
出典:日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年)/労働政策研究・研修機構のウェブ記事による要約(2026年4月8日掲載・2026年10月6日閲覧)
さっきの若手看護師の研究でも、5年目では「役割を果たせている実感」が出てきました。 「自分はやれている」と思えるかどうかは、新人にも中堅にも関わるようです。
私の実践|未経験の事務スタッフを育て、任せた
転職後の店舗には、未経験の医療事務スタッフが多くいました。 私の役割は、薬局の仕組みを見直して、スタッフを育てることでした。
数年たつと、事務スタッフはすっかり仕事に慣れてくれました。 「ゆっくり休んでてください」と言われた時は、正直、感動しました。
その分、私は患者さんとの話に時間を使えるようになりました。 通院日でなくても、患者さんが相談に来てくれる薬局になっていきました。
仕事を任せても、スタッフが「ミスしたらどうしよう」とこわがって動けないんです……。


私が大事にしていたのは「頼まれたら全部やる。気づいたら相談・報告する」です。初めての仕事でも、調べたり教わったりすれば大丈夫。誰でも初めてはあります。こわいのは1回目だけです。
研究や調査で分かっていること
- 上司の感謝は、言われた側の行動を増やすことがある
- 言いやすい職場の看護師は、1年以内に辞めたい人が少なかった
- 年休の取りやすさや勤務の柔軟さは、5年目の看護師の「辞めたい」と関係していた
- 仕事の割り振りの偏りは、丁寧な決め方だけでは打ち消せなかった
- 新人が辞めた理由として、看護管理者は適性や実践能力への不安を多く挙げていた
離職率を下げるために今日からできること|5つのチェック
ここまでの5つの条件を、明日から見直せる形にしました。 全部できていなくても大丈夫です。できていない所が、伸びしろです。
| 条件 | 見直すこと |
|---|---|
| 上司との関係 | 今週、スタッフの仕事に「ありがとう」と具体的に伝えたか |
| 何でも言える空気 | ミスの報告を受けた時、まず「教えてくれてありがとう」と言えているか |
| 休みの取りやすさ | 自分(上司)が、この3か月で有給を取ったか |
| 公平さ | 忙しい時間帯や嫌がられる仕事が、同じ人に集まっていないか |
| 成長の実感 | 1人ひとりに、任せている仕事と、できるようになったことを伝えたか |
いちばん手薄な所を、1つだけ選んで始める。 それが、職場の空気を変える最初の一歩になります。
もし、もう誰かが辞めてしまって自分を責めているなら、部下が辞めるのは自分のせい?の記事も読んでみてください。 上司が背負いすぎないための考え方をまとめています。

私も転職前の職場の3年目に、スタッフの退職が続いて、薬剤師が自分1人になったことがあります。だからこそ、1人で抱えないでほしいと思っています。
心の不調やハラスメントが心配な時は、1人で抱えない
看護協会の調査でも、新人が辞めた理由として、看護管理者が「精神的な病気」をいちばん多く挙げていました。 スタッフの心の不調や、職場のハラスメントが心配な時は、上司だけで判断しない方が安全です。
厚生労働省の「こころの耳」には、働く人と、職場で支える人のための相談先がまとまっています。
- 「こころの耳 厚生労働省」で検索する
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職場のトラブルや働き方の相談は、労働局の総合労働相談コーナーでも受け付けています。
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よくある質問
離職率は、何から手を付ければいいですか?
いちばん手薄な条件を1つ選ぶのがおすすめです。 迷ったら、上司が先に有給を取るところから始めてみてください。 お金をかけずに、明日からできるからです。
給料を上げられないと、離職率は下がりませんか?
給料は大事な条件の1つですが、それだけではありません。 研究でも、言いやすい空気や休みの取りやすさ、割り振りの公平さが「辞めたい」と関係していました。 待遇を上げたい時は、先に利益の数字を用意すると話が進みやすいです。
薬局やクリニックにも、看護の研究は当てはまりますか?
この記事で紹介した研究の多くは、病院の看護師を調べたものです。 職場が違えば、そのまま当てはまるとは限りません。 ただ、私の薬局の経験とも重なる所が多く、考えるきっかけには使えると思っています。
まとめ|医療・薬局の離職率を下げるのは、辞めたくならない職場づくり
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- 2024年度、病院の正規雇用の看護職員では、およそ10人に1人が辞めていた(日本看護協会の調査)
- 研究や調査で「辞めたい気持ち」や働く意欲とつながっていたのは、上司との関係・言いやすい空気・休みの取りやすさ・公平さ・成長の実感
- 研究で分かるのは「関係がある」まで。引き止めではなく、辞めたくならない職場を目指す
- 私が続けたのは、感謝を行動で示す・環境作りを拾う・有給を先に取る・利益を出して交渉する・育てて任せる
管理職が変えられるのは、まず自分の行動からです。 今日できることは1つだけ。この記事のチェック表から、いちばん手薄な所を1つ選んでみてください。
言いやすい職場づくりを本で深めたい人には、この1冊が入り口になります。
