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「何か困ってることある?」と聞いたのに、部下は画面から目を上げずに「大丈夫です」とだけ答える。 会議で意見を求めても、誰も口を開かない。
こんな場面、ありませんか?
部下のやる気がなくて……。叱ってもダメ、ほめても響かない。もうどうしたらいいのか分かりません。

上司として、いちばん手詰まりを感じる瞬間ですよね。 この記事では、部下のやる気がない時に上司がやってはいけない3つのことが分かります。 あわせて、研究で分かった「やる気が戻る」きっかけと、今日からできる声かけも紹介します。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
最初の職場では、失敗もあり10人以上が辞めています。 そこからやり方を変え、最後の2年は辞める人がいませんでした。
部下のやる気がない時の結論|「上げる」より「じゃまを取る」
先に結論です。やる気は、上司が外から足すより、じゃまを取るほうが戻りやすい。
叱ったりご褒美を用意したりする前に、部下の前進を止めているものを1つ取る。 私が現場で行き着いたのも、この考え方でした。
まず、いまの職場の状況を見てみます。 米国の調査会社 Gallup は、世界の国と地域で働く人に、仕事への熱意を聞いています。
2025年、熱意を持って仕事に取り組む人は世界で20%でした。 日本は8%で、東アジアの平均18%を大きく下回っています。 管理職自身の熱意も22%で、2022年から9ポイント下がりました。
出典:Gallup「State of the Global Workplace: 2026 Report」(2026年・2026年10月15日閲覧)

日本の数字は、2025年までの3年間の平均です。 この調査は「なぜ低いか」までは示していません。
控えめに答える国ごとのくせも、影響しているかもしれません。 それでも、やる気が見えにくいのはあなたの職場だけではない、とは言えそうです。

管理職のやる気も下がっているんです。部下のやる気に悩むあなた自身も、疲れていて当然です。
上司のほうが参っている時は、管理薬剤師に疲れたあなたへも読んでみてください。
上司がやってはいけないこと①|叱ってやる気を上げようとする
1つ目は、叱ってやる気を出させようとすることです。 「ちゃんとして」「やる気あるの?」と言いたくなる気持ちは、よく分かります。
でも、叱られた日は、部下にとって「つまずいた日」として残りやすいと、私は考えています。
ハーバード・ビジネス・スクールの Amabile たちは、7社の238人に毎日の日誌を書いてもらいました。 集まった日誌は約12,000日分です。 そこから、気持ちややる気をいちばん押し上げたのは「意味のある仕事で前に進めたこと」だと分かりました。
逆に、つまずき(後退)が気持ちを下げる力は、前進が上げる力の2〜3倍でした。 対象は知識労働のプロジェクトチームで、どの業種にも当てはまるかはまだ分かっていません。 それでも「悪い1日は、良い1日より重く残る」というのは、うなずける話ですよね。
出典:Amabile, T. M., & Kramer, S. J.(2011)"The Power of Small Wins" Harvard Business Review/Daniel Pink による Amabile へのインタビュー「Why Progress Matters」(2026年10月15日閲覧)
でも、ミスをした時に何も言わないわけにはいかないですよね?


もちろんです。直すべきことは伝えます。ただ、責めるより「次はどうする?」を一緒に考えるほうが、前に進んだ感覚が残ります。
叱ることの良し悪しを、そのまま比べた研究ではありません。 ただ、つまずきの重さを知っていると、言い方を選ぶ理由になります。
上司がやってはいけないこと②|ご褒美で釣る
ご褒美を用意すれば、さすがにやる気は出ますよね?

2つ目は、ご褒美だけでやる気を引き出そうとすることです。 「これが終わったらお菓子」「数字を達成したら手当」。 すぐ効きそうに見えますが、続かないことがあります。
心理学者の Deci・Koestner・Ryan は、ご褒美とやる気の実験128本をまとめて分析しました。 対象は子どもと大学生が中心で、主に実験室での短い作業です。
「やればもらえる」「やり終えたらもらえる」「成績が良ければもらえる」ご褒美は、どれも自分から湧くやる気を下げていました。
やる気は2つの方法で測っています。
- 自由に過ごしていい時間に、その作業を自分から続けた量
- 本人が答えた「どれくらい面白いか」
一方で、ことばで良かった点を伝える「ポジティブなフィードバック」は、やる気を上げていました。
出典:Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M.(1999)"A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation" Psychological Bulletin
じゃあ、ボーナスや手当は意味がないんですか?

そうとも言い切れません。 Cerasoli たちは、学校・職場・運動の183の研究、延べ212,468人分をまとめました。 仕事の「量」とより強く結びついていたのはご褒美で、「質」とより強く結びついていたのは自分の中から湧くやる気でした。
出典:Cerasoli, C. P., Nicklin, J. M., & Ford, M. T.(2014)"Intrinsic motivation and extrinsic incentives jointly predict performance: A 40-year meta-analysis" Psychological Bulletin
これは「いっしょに動く関係」を見た研究で、原因と結果までは言えません。 それでも、ご褒美は全部ダメではなく、ご褒美だけに頼ると質の面が弱くなりやすいと読むのが正確です。
給料や手当は、働く人の暮らしを支える大事なものです。この記事で言う「ご褒美で釣る」は、やる気を出させる道具としてご褒美だけを使うことです。
上司がやってはいけないこと③|関係ができる前に「正しいこと」を押し付ける
3つ目は、信頼ができる前に、正しいことを押し付けることです。 これは私の失敗談です。
最初の職場で、私は1年目から管理薬剤師になりました。
就任してすぐ、店の収入になる取り組み(ジェネリック医薬品の割合を上げること)を、「皆で進めていきましょう!」とスタッフに呼びかけました。 返ってきたのは「これ以上仕事を増やさないでください」「まずは仕事を覚えることからしたらどうですか?」でした。
正直、出鼻をくじかれました(笑)。 いま思えば、信頼ゼロの新人が言う「正しいこと」は、現場には仕事が増える話にしか聞こえなかったんです。

同じ取り組みでも、言う人との関係で、聞こえ方がまるで変わります。
もともと私は、薬の知識で相手を言い負かすのではなく、「数字と人間心理」を武器にすると決めていました。 この失敗のあと、まず現場の面倒くさいことを拾い、スタッフの負担を減らすことを先にしたんです。
関係ができてから同じ取り組みに再挑戦すると、今度は受け入れてもらえました。 その取り組みだけで、月に約50万円の利益アップになりました。
やる気がないように見えた人も、関係ができると動いてくれる。これが私の実感です。

研究で分かった「やる気が戻る」きっかけ
やる気が戻るきっかけは、大きく2つです。 「小さな前進」と「ありがとう」。 どちらも、お金をかけずに今日からできます。
研究で分かっていること
- 気持ちややる気をいちばん押し上げたのは、意味のある仕事で前に進めたこと(Amabile たち)
- ことばで良かった点を伝えると、やる気が上がっていた(Deci たち)
- 感謝を伝えられた人は、もう一度手を貸す割合が高かった(Grant と Gino)
きっかけ①|小さな前進を見える形にする
部下の前進を助けることが、上司の大事な仕事です。 ところが、多くの管理職はそこに気づいていない、という調査があります。
Amabile たちは、管理職669人に「部下のやる気を引き出すもの」5つに順位を付けてもらいました。 5つは、前進の手助け・よい仕事を認めること・ご褒美・人としての支え・はっきりした目標です。
「前進」を1位にしたのは5%(35人)だけで、全体では最下位でした。
出典:Amabile, T. M., & Kramer, S. J.(2011)"The Power of Small Wins" Harvard Business Review/The Progress Principle 公式サイト/Daniel Pink による Amabile へのインタビュー(2026年10月15日閲覧)
あなたなら、どれを1位にしますか?
私が最初の職場でしたのは、前進を止めている「面倒くさい」を拾うことでした。 例えば、薬を集める時のルールが無く、記憶に頼っていました。

前進のじゃまは、毎日の小さな「面倒くさい」に隠れていることが多いと、私は感じてきました。
そこで、すべての処方せん(医師が出す薬の指示書)のコピーを取り、注意点や確認した人の名前を書き込む形にしました。
すると、取り違えと薬を探す時間が減り、新人も早く覚えられるようになりました。 スタッフがお互いに言葉を書き合うので、ミスも減りました。
大きな改革ではありません。でも、毎日の「今日はうまく回った」が増えたんです。
きっかけ②|「ありがとう」を具体的に伝える
もう1つは、感謝のことばです。 Grant と Gino は、感謝のことばが人の行動をどう変えるかを実験で調べました。
- 学生の実験:別の学生の就職用の手紙に意見を送ったあと、返事に感謝の一文があった組では66%がもう一度手を貸した。「受け取りました」だけの組は32%
- 大学の募金の電話担当41人の実験:責任者が1つの組にだけ直接会って感謝を伝えた。その組の翌週の電話の回数は、感謝の前より50%以上増えた
出典:Grant, A. M., & Gino, F.(2010)"A little thanks goes a long way: Explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior" Journal of Personality and Social Psychology
理由は「自分の力に自信がついたから」ではなく、「自分は大事にされている」と感じたからでした。 人数が少なく、見たのは1週間の効果だけです。長く続くかはまだ分かっていません。

「ありがとう」は、能力をほめる言葉ではなく、「あなたがいてくれて助かる」を伝える言葉なんです。
私の現場でも、似たことがありました。 業務のあとに全員で出る勉強会があり、私はそれを業務時間内に共有する形に変えました。 すると「考えてくださってありがとう」と喜ばれ、特に子育て世代のスタッフから感謝されました。
スタッフから「今まで気にかけてもらったことはなかった」と言われたこともあります。 大きな改善ができなくても、相手の苦労を分かろうとするだけで、信頼は積み上がっていきました。
今日からできる声かけ|やる気がない部下への伝え方
ここからは、明日の朝から使える声かけです。 大事なのは、叱るでも釣るでもなく、「前進」と「感謝」を言葉にすることです。
| 場面 | 言いがちな言葉 | 代わりの声かけ |
|---|---|---|
| 朝のあいさつの後 | 「今日もがんばって」 | 「今、仕事で引っかかっていることはある?」 |
| 仕事が終わった時 | 「次はもっと早くね」 | 「昨日の在庫の整理、助かりました。朝がスムーズでした」 |
| ミスがあった時 | 「なんでこうなったの?」 | 「次はどうしたら防げそう? 一緒に考えよう」 |
| 週の終わり | 「今週の数字、足りてないよ」 | 「今週、前に進んだことは何だった?」 |
ポイントは3つです。 - 何に助かったかを、具体的に言う(「ありがとう」だけで終わらせない) - 部下が困っていることを聞き、上司が取れるじゃまを1つ取る - 週に1回、前に進んだことを一緒に確かめる
でも、急に声かけを変えたら、部下に気持ち悪がられませんか?


最初はぎこちなくて大丈夫です。具体的な「助かった」なら、うそのほめ言葉にはなりません。
今日からできること
- 部下1人の「昨日の仕事で助かったこと」を1つ見つけて、そのまま伝える
- 「今、引っかかっていることはある?」と聞いて、1つだけ取り除く
辞める前のサインが気になる時は、医療・薬局のスタッフが辞める前兆7つも参考になります。 もし部下が辞めてしまって自分を責めているなら、部下が辞めるのは自分のせい?も読んでみてください。
やる気がないのではなく、心が疲れているかもしれない時
やる気がないように見えて、実は心や体が疲れていることもあります。 眠れていない様子や、表情の変化が続く時は、やる気の問題として扱わないでください。
上司が診断をすることはできません。 本人に声をかけたうえで、相談先を一緒に探すのが安心です。 厚生労働省の「こころの耳」というサイトで、働く人の相談窓口を探せます。
- 「こころの耳 厚生労働省」で検索する
- 厚生労働省の「こころの耳」のページを開く
- ページの中の「相談窓口案内」を開き、電話・SNS・メールなどの窓口から選ぶ
窓口の名前や受付の時間は変わることがあります。使う前に、こころの耳のページで最新の案内を見てください。
もっと知りたい人へ|やる気の研究をまとめた本
この記事で紹介した研究を、もっと詳しく知りたい人には本もあります。
モチベーション3.0は、自分の中から湧くやる気の研究を、一般の読者向けにまとめた本です。 ご褒美で動かすやり方の限界を、身近な例で考えられます。
マネジャーの最も大切な仕事は、この記事の Amabile たちの本です。 日誌の研究をもとに、小さな前進とやる気の関係を説明しています。
よくある質問
部下のやる気がないのは、上司のせいですか?
全部が上司のせいではありません。 働く人の熱意は世界でも日本でも低く、上司1人では変えにくいことも多いです。 そのうえで、前進のじゃまを取ることは、上司の手が届く部分です。
ほめるのが苦手です。どうすればいいですか?
無理にほめなくて大丈夫です。 「〜してくれて助かった」と、起きたことと感謝をそのまま伝えるだけで十分です。
ご褒美や手当は、やめたほうがいいですか?
やめる必要はありません。 さっきの研究でも、ご褒美は仕事の量と結びつきやすいと分かっています。 ご褒美だけに頼らず、前進と感謝もあわせて伝えるのがおすすめです。
まとめ|明日の朝、「助かりました」から始める
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- 部下のやる気がない時、叱る・ご褒美で釣る・正しさの押し付けは続きにくい
- つまずきは、前進よりも2〜3倍強く気持ちを下げていた
- やる気が戻るきっかけは、小さな前進と、具体的な「ありがとう」
- 関係ができると、一度反対されたことでも動いてくれることがある
やる気は、上司が外から足すより、職場の中で育っていくもの。
明日の朝、職場に着いたら、部下の誰か1人に「昨日のあれ、助かりました」と、具体的に1つ伝えてみてください。 その一言が、あなたのチームの「前に進んだ日」を増やす、最初の一歩になるかもしれません。
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