この記事にはプロモーション(広告)が含まれます。文中のサービス名のリンクとボタンには広告(アフィリエイトリンク)を含むものがあります。紹介している転職サービスは、運営会社が公表されていることと各社の公式情報をもとに選んでいます。執筆者が利用者として使った経験にもとづくものではありません。
年収を上げてほしいって、自分から言ってもいいのかな…。

「年収を上げてほしい」と言いたいのに、その一言がどうしても出てこない。口に出した瞬間に「お金のことしか考えていない人」と思われそうで怖い。そう思って何年も黙っている方は多いと思います。私は1年目から薬局長(管理薬剤師)を10年やり、後半は人事として薬剤師の採用面接も担当していました。この記事では、払う側の席から見て「上げてもいい」と思える条件は何なのか、私が本業の年収の最高980万円まで上げられたときの言い方と、金額は上がったのに信用を失った失敗を並べて書きます。

結論:交渉はしていい。ただし「上げてください」から始めません
先に結論です。年収の交渉は、切り出して構いません。失礼でもありません。
ただ、順番があります。私がうまくいったときの言い方は、いつも同じ形でした。先に相手の得になることを約束し、その対価を同じ場で決める。「これをやります。ですから、この分をください」という順番です。
うまくいった順番
- 先に、相手の得になることを約束する
- その対価を、同じ場で決める
逆にうまくいかなかったのは、「他社から誘われています」を材料にしたときでした。年収は600万円に上がりましたが、その日から数年かけて、減らした信用を積み直すことになりました。金額だけを見れば成功で、残ったものを見れば失敗です。
この記事で伝えたいのは、交渉は度胸の問題ではなく順番の問題だ、ということです。
私自身は、面接で年収の話をしませんでした
新卒で就職するとき、面接で私が言ったのは一言だけでした。「管理薬剤師を経験したいです」。1000万円の奨学金を抱えていたので、お金は切実に必要でした。それでも金額の話はしませんでした。
お金が切実なのに、金額の話をしなかったんですか?

理由は単純です。お金が欲しいことなんて、経営者は言われなくても分かっています。まだ1円も利益を出していない新人が金額から入ると、話が「払う・払わない」だけになってしまいます。先に相手が欲しがるものを置いたほうが、あとで戻ってきやすいと考えました。
結果として、1年目から店舗を任せてもらえました。そのときの年収は520万円です。
ここで誤解してほしくないのは、「年収の話をしてはいけない」という意味ではないことです。渡せるものがある段階なら、年収の話は堂々としていい。渡せるものが何もない段階で金額から入ると弱い、というだけの話です。
採用側が年収の話を聞いたとき、頭の中で確かめていること
ここからは、私が人事として採用面接を担当し、他店舗の売上も見るようになってから分かったことです。払う側に回ると、見るところが変わります。
給料を上げるお金(原資)があるか
お店が忙しいなら、そのぶん給料も上がるものじゃないんですか?

まず見るのは、給料を上げるための元手(原資)があるかどうかです。薬局の収入は、ほとんどが調剤報酬から来ています。調剤報酬は国が決める価格(公定価格)で、薬局が自分で値上げできるものではありません。「売れているから給料を上げよう」という商売の発想が、そのままでは使えないのです。
だから払う側から見ると、給与を上げるお金は「どこかで増えた利益」か「これから増える見込みの利益」から出すしかありません。ここが空っぽのときは、どれだけいい人でも金額は動きにくいです。逆に言えば、原資の作り方まで一緒に持っていくと、話が進みやすくなります。
抜けられたときの手間をどう見ているか
薬剤師が1人抜けると、会社は代わりを探すところから始めます。紹介会社に払う手数料(紹介手数料)もかかり、決まるまでの間は残った人の負担が増えます。私が見ていた範囲では、採用にかかるお金と時間は、外から見えるよりも経営者の判断に効いていました。
これは「辞めるとにおわせれば上がる」という話ではありません。むしろ逆です。その人が担っている仕事が具体的で、代わりの人がすぐに同じことをできる状態ではない。その事実そのものが交渉の土台になります。
ほかのスタッフに説明できる理由があるか
1人だけ給与を上げると、会社は他のスタッフに説明する必要が出てきます。「なぜあの人だけ」に答えられる理由がないと、決める側は動きにくいです。
だから「頑張っています」は理由になりません。加算を取った、廃棄する薬を減らした、人を育てた、といった外から見える形にしておくと、決める側は社内で説明できます。交渉は、相手に説明の材料を渡す作業でもあります。
なお、私が勤めていたような地方の中小薬局では、評価が明確な指標だけで決まるとは限りませんでした。現場から離れた本部にいる人は、「あの店舗は本当に回っているのか」を自分の目では見られません。だから現場の人から届く評判が、そのまま評価になることがあります。私の評価が上がったきっかけも、一緒に働いていた事務スタッフから本部へ伝わった一言でした。

本部の人は店舗を自分の目で見られません。だから、一緒に働く人の一言がそのまま評価になることがあります。
失敗:3年目、「他社から600万円」を材料にした昇給
ここから私の2回の交渉を並べます。金額はどちらも上がりましたが、残ったものは正反対でした。

他社から条件のいい話が来たら、つい使いたくなりますよね…。

3年目、自分の市場価値を知るために転職活動をしていた私は、他社から600万円の話をもらいました。1000万円の奨学金という焦りもあり、目先の金額に目がくらみました。
そして社内の会話で、「実は他社から600万円で誘われていまして」とこぼしてしまいました。噂はすぐに本部へ伝わり、面談に呼ばれ、金額を聞かれ、その場で600万円への昇給が決まりました。2年目の542万円から、一気に58万円の昇給です。
要求は通りました。それでも部屋を出たとき、私は喜べませんでした。決めた人の少し冷めた目を見た瞬間に、3年かけて積み上げた信用が減ったことが分かったからです。
自分の市場価値を確かめるための転職活動は、今でもやったほうがいいと思っています。ただ「よそから誘われているから上げてほしい」は、1回しか使えないカードです。使った後も同じ会社にいるなら、失うものの方が大きいことが多いと感じています。
金額が上がったなら、それで良かったんじゃないですか?

なぜ「他社カード」は弱いのか
払う側から見ると、この交渉には相手の得がひとつも入っていません。「上げないと抜ける」という話なので、会社が受け取るのは「損を避けられる」だけです。上げた後に残るのは、「この人はまた同じことをするかもしれない」という記憶です。
しかも薬剤師が集まりにくい地域では、引き抜きの話は珍しくありません。自分では希少なカードだと思って出したものが、相手にはよくある話だということもあります。

気をつけたいのは、転職活動をすることではなく、その話を社内で交渉の材料に使うことです。
成功:6年目、土曜の開局を引き受けて対価を先に決めた
6年目、私は別の薬局に移りました。地域の集まりで知り合った方から経営者を紹介してもらい、「土日休み・年収900万円」という話をいただいたからです。
移った先で任されたのは、未経験の医療事務スタッフを育てることと、赤字を黒字に戻すことでした。利益をいちばん大きく動かせる手が、地域支援体制加算という加算の取得でした。この加算の施設基準には開局時間の条件があり、私の店舗で取るには土曜の開局が必要でした。もらっていたオファーは土日休みです。
オファーと違う条件になったら、黙って受け入れるしかないと思っていました…。

条件と会社の目標が正面からぶつかっていました。ここで私は、後から不満を言う道を選びませんでした。先にこう伝えました。
「私が中心になってスタッフを育て、加算の取得まで持っていきます。その代わり、条件外になる土曜の出勤には、別に残業代をください」
約束どおり土曜の手当が上乗せされ、加算も取れました。年ごとの年収の推移そのものは1年目520万円から最高980万円までの推移にまとめているので、ここでは交渉の中身だけを書きます。ここで効いたのは、土曜に出る話と手当の話を同じ場で決めたことです。副業を含めた収入の話は、このあとのブログや動画が育ってからになります。
加算の名前も条件も調剤報酬の改定で変わります。今の内容は厚生労働省が公表している最新の資料で確かめてください。
大事なのは、この交渉で私が金額の話を先にしていない点です。渡すものを先に置き、その対価としてお金を置きました。順番を入れ替えるだけで、同じ内容が「お願い」から「取引」に変わります。
参考:自分が言わなくても上がった年もあります
4年目には、私が何も言わないまま年収が上がった年もあります(金額と前後の推移は、さきほど挙げた年収の推移の記事に書きました)。人が続けて辞めて薬剤師が私1人になった時期に、当時の役員が本部に掛け合ってくれたものでした。
ただ、今から思えばこの働き方はすすめられません。体調が悪い日は休む、人手が足りない状態は早めに会社へ伝える。そのほうが自分も患者さんも守れます。黙って耐えることは、交渉の方法ではありません。
交渉の型は「先に約束 → 対価を同じ場で決める → 書面で確かめる」

私の2回の交渉の違いを、そのまま手順にするとこうなります。
- 先に相手の利益を約束する:会社が困っていることのうち、自分が引き受けられるものを1つ選んで言葉にします。「加算の要件を担当する」「新しい人を育てる」「土曜に出る」など、相手が体制や数字として受け取れる形にします
- 対価を同じ場で決める:引き受ける話と対価の話を、別の日に分けないことです。後から持ち出すと「やってくれると思っていた」と受け取られやすくなります
- 書面で確かめる:決まった条件を口約束のままにしないことです

3年目と6年目で違ったのは、この1つ目があったかどうかでした。
3つめについて補足します。求人を出す会社や紹介事業者には、業務の内容や賃金などを明示することが職業安定法第5条の3で求められています。入社のときには労働基準法第15条にもとづいて労働条件を示すことになっています。
聞いた話と書面が違うと感じたら、決める前に確かめるのが安全です。制度の細かい判断は状況によって変わるので、気になる場合は労働基準監督署などに相談してください。
ここから先に出てくるサービス名のリンク(文中のリンクとボタンの両方)には、広告(アフィリエイトリンク)を含むものがあります。ボタンには PR と表示していますが、文中のリンクにも広告が含まれます。
自分では切り出しにくい条件は、担当者が間に入るサービスを通して先に伝える方法もあります。薬剤師に絞ったところでは、エムスリーキャリア株式会社が運営する薬キャリAGENTのように、担当者が付くサービスがあります。どこまで代わりに伝えてもらえるかは担当者や求人先によって変わるので、扱っている条件は各社の公式サイトで確かめてください。
言い方の例:同じ希望を、順番だけ変える
| 伝えたいこと | 順番が逆の言い方 | 先に約束を置いた言い方 |
|---|---|---|
| 年収を上げたい | 奨学金の返済があるので年収を上げてほしいです | 来期は在庫の見直しと加算の要件を私が担当します。取れたら、その分を評価に反映していただけますか |
| 役職に就きたい | そろそろ管理薬剤師をやらせてほしいです | 今の店舗の当番と発注は私が回せます。次に管理者が必要になったとき、候補に入れてください |
| 土曜に出る対価が欲しい | 土曜の出勤が続いてきついです | 土曜の開局は私が担当します。条件外の出勤になるので、手当の形を先に決めさせてください |
| 残業を減らしたい | 残業が多くて限界です | 夕方の混み方を1か月記録しました。人の配置をこう変えると残業が減ると思います。試させてください |
左の言い方が悪いわけではありません。事実としては正しいです。ただ、左は相手に「判断」だけを求め、右は相手に「材料」を渡しています。渡すものがあるほうが通りやすい、というだけの違いです。
右の言い方でも、断られたらと思うと怖いです…。

右の言い方には、もうひとつ利点があります。断られても、引き受ける話だけは相手の記憶に残ります。私も1年目に後発医薬品の推進を提案して現場に反対されましたが、人間関係を整えてから同じ話を出し直したときには通りました。
交渉の前に用意する4つ
- やったことを数字に直す:加算、在庫の廃棄、育てた人の数、店舗の売上など。私の場合は、年間の利益を500万円押し上げたと数字で説明できる状態にしておいたことが、会社と同じ土俵で話をするための土台になりました
- 引き受けられるものを決める:相手が困っていることのうち、自分が引き受けられる範囲。無理なものを約束すると後で崩れます
- 譲れない条件と譲れる条件を分ける:勤務日、通勤時間、年収の下限。その場で考えると空気に流されます
- 時期を選ぶ:評価や予算が決まる前に話すことです。決まった後だと、原資がもう他へ割り振られていることがあります
この4つは、どれも相手に頼むことではなく、自分の側で用意できます。逆に言えば、用意しないまま切り出すと、感情のぶつけ合いになりやすいです。
社内で原資が作れそうにないときは、外の条件を並べて見ておくのも手です。時給の形で条件が見えやすい派遣も扱うお仕事ラボ(調剤薬局のアイセイ薬局グループ、株式会社AXISが運営)のようなところで求人の出方を見ておくと、今の条件をどう見るかを自分で判断しやすくなります。扱っている働き方や地域は会社ごとに違うので、そこは公式サイトで確かめてください。
よくある質問
在職中に年収交渉を切り出すのは失礼ではないですか
失礼ではないと考えています。ただ、金額だけを持っていくと、相手は判断だけを求められる形になります。引き受けられる仕事と一緒に持っていくと、同じ話でも受け取り方が変わります。
「他社から誘われている」と言えば上がりますか
金額としては動くことがあります。私は3年目にそれで600万円まで上がりました。ただ、同じ会社に居続けるなら、失うものの方が大きいと感じました。使えるとしても1回だけだと思っています。
交渉に失敗したら職場にいづらくなりませんか
言い方によります。「上げてくれないなら辞めます」で終わると、断られた後に何も残りません。「これを引き受けます、条件はこうしたい」という形なら、断られても引き受ける話が残るので、次の機会に持ち越せます。
転職のときと在職中では、どちらが条件を動かしやすいですか
私が採用側で見ていた範囲では、入口(入社や転職のとき)の方が条件は動かしやすいと感じました。会社側も条件を決める場だと思って座っているからです。在職中は評価や昇給の仕組みの中で動かすことになるので、時期と原資の話が効いてきます。
交渉の材料が何もありません。どうすればよいですか
材料は、これから作るものでも構いません。私の6年目は「これからやります」という約束で対価を決めました。実績ではなく計画でも、相手が受け取れる形になっていれば材料になります。
まとめ
年収交渉について、私が10年で学んだことは1つです。金額を要求するのではなく、相手の利益を先に約束して、その対価を同じ場で決める。順番を変えるだけで、同じ希望が通りやすくなります。
3年目の私は、他社の話を材料にして600万円まで上げました。金額は上がり、信用は減りました。6年目の私は、土曜の開局を引き受ける約束を先に置いて、本業の年収の最高980万円まで上げました。どちらも金額は上がりましたが、残ったものは正反対でした。
もし今の職場に原資がなく、どう言っても動かせないと感じるなら、入口を選び直すのも方法のひとつです。その場合も順番は同じです。やれることと譲れない条件を先に整えてから、1社ずつ話してみてください。ここでは運営会社を確かめられたところを2つ挙げます。順位をつけるものではありません。
派遣という働き方も一緒に見たい人は、株式会社メディカルリソース(日本調剤グループ)が運営しているこちらから。
薬局以外の職場も条件を並べて見たい人は、アポプラスキャリア株式会社が運営しているこちら。どの職場の求人を扱っているかは公式サイトに載っているので、そこで確かめてください。
交渉が怖いのは、断られる場面を先に想像するからだと思います。私も最初はそうでした。渡せるものを1つ用意してから座れば、話は「お願い」ではなく「相談」になります。怖いのは1回目だけです。
