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部下に「辞めます」と言われました。私の接し方が悪かったんでしょうか……。

部下から退職を切り出された日は、帰り道がやけに長く感じますよね。 「あの時の一言がまずかったのか」と、何度も思い返してしまう。 上司として、いちばん自分を責めやすい場面です。
この記事では、部下が辞めるのは本当に自分のせいなのかを、国の統計と研究で確かめます。 そのうえで、自分を責めずに次の手を考える方法と、次の退職を防ぐために上司ができる3つのことが分かります。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
部下が次々に辞めて、薬剤師が私1人になった失敗もあります。
部下が辞めるのは自分のせい? まずは「全部ではない」
先に結論です。部下が辞めた理由が、全部あなたにあるわけではありません。 人が仕事を辞める理由は、もっといろいろあるからです。
国の統計を見てみましょう。 厚生労働省は、転職した人が前の職場を辞めた理由をまとめています。 個人的な理由のうち、「その他」を除いた上位は次のとおりでした(理由は1つだけ選ぶ形です)。
| 辞めた理由(個人的な理由の上位) | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 給料等収入が少なかった | 10.1% | 8.3% |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.0% | 11.7% |
| 労働時間・休日等の労働条件が悪かった | 8.6% | 12.8% |
出典:厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」(2025年・2026年10月5日閲覧)

人間関係も確かに上位に入っています。 でも、給料や労働時間・休日も、同じくらいの割合で並んでいます。 給料の額や休みの数は、現場の上司1人では決められないことも多いですよね。

辞めた理由には、上司の手が届かないものもたくさん混ざっています。全部を1人で背負わなくて大丈夫です。
辞める理由と上司の関係|研究で分かっていること
じゃあ、上司は関係ないってことですか?


そうとも言い切れません。上司にできることも、ちゃんとあるんです。
アメリカの調査会社 Gallup は、過去1年に自分から仕事を辞めた米国の成人717人に話を聞きました(2023年11月)。 その42%が「上司か会社が何かしていれば、辞めなかった」と答えています。
出典:Tatel, C. & Wigert, B.(2024)"42% of Employee Turnover Is Preventable but Often Ignored" Gallup(2026年2月16日更新・2026年10月5日閲覧)
同じ調査には、上司にとって耳が痛い数字も載っています。
- 36%は、辞めると決める前に、誰にも相談しなかった
- 45%は、辞める前の3か月間に、仕事の満足度・仕事ぶり・この会社での将来について、上司からもほかのリーダーからも話を持ちかけられなかった
出典:Tatel, C. & Wigert, B.(2024)"42% of Employee Turnover Is Preventable but Often Ignored" Gallup(2026年2月16日更新・2026年10月5日閲覧)
あなたは最近、部下と「仕事、どう?」と話せていますか? 私も忙しい時期は、目の前の業務を回すだけで1日が終わっていました。
もう1つ、上司の影響の大きさを示す数字があります。 Gallup は約10万チーム・270万人のデータを分析しました。 チームごとの「仕事への前向きさ」の差は、少なくとも70%が上司で説明できる、という結果でした。
出典:Gallup「State of the American Manager: Analytics and Advice for Leaders」(2015年・2026年10月5日閲覧)
この数字は「辞めた理由の大半が上司」という意味ではありません。チームごとの前向きさの差を、上司の違いでどれだけ説明できるかを表したものです。
ここまでをまとめると、辞める理由には上司の外にあるものも多い。 でも、チームの空気には上司が大きく関わっています。 この2つは、どちらも本当です。
私の失敗|3年目に薬剤師が5人から1人になった
ここで、私自身の失敗をお話しします。 正直に言うと、毎日つらくて職場への足が重かった時期の話です。
新卒で配属されたのは、毎日たくさんの患者さんが来る、とても忙しい薬局でした。 マニュアルはなく、職場の空気もギスギスしていました。 私はその店の管理職として、1年目から働き始めました。
私がまず力を入れたのは、働きやすい環境づくりです。
- 患者さんからの強いクレームには、誰より先に出ていって盾になる
- スタッフどうしのぶつかりを減らすよう、間に立つ
- 誰も有給を取れない職場で、自分が先に有給を取る
少しずつ、店の空気はやわらいでいきました。
緩衝材だったスタッフの退職をきっかけに
ところが3年目の冬です。 職場の空気をいちばんやわらげてくれていたスタッフが、辞めることになりました。
そこからスタッフどうしの衝突が増え、退職が続きました。 多い時は5人いた薬剤師が、最後は私1人になったんです。
昼休みはなし。熱が40℃出ても出勤していました。 それでも私は、上に文句を言わずに店を回し続けました。
そこまでいくと、さすがに自分を責めませんでしたか?


毎日つらくて、それでも何とかしないとと店を回すので精一杯でした。表面の空気は整えても、根っこの忙しさは変わっていなかったと、今振り返って思います。
退職は「うつる」ことがある
実は、同僚のようすが本人の退職と結びつくかを調べた研究があります。 米国の銀行の45支店と、サービス業の会社の1,038部署を調べた研究です。
職場とのつながりが弱い同僚や、転職活動をしている同僚がいると、本人も辞めやすい傾向がありました。 本人の性格や職場の条件などを考えに入れても、この結びつきは残ったそうです。
出典:Felps ほか(2009)"Turnover Contagion: How Coworkers' Job Embeddedness and Job Search Behaviors Influence Quitting" Academy of Management Journal
これは「結びつきがある」という研究で、1人辞めたら必ず次が辞める、という意味ではありません。 ただ、私の現場で起きたことと、よく重なります。
1人の退職は、残った人の気持ちも揺らします。 だから、辞めた人より「残った人」に目を向けるのが次の一手です。
「自分原因論」は自分を責める道具ではない
ここで紹介したいのが、私が1年目から大事にしてきた「自分原因論」です。
何か問題が起きた時、「あの人のせい」と考えるのではなく、「自分に何ができただろう」と考える。 他人のせいにしても、何も進まないからです。 この考え方は、自分を伸ばし、気持ちを保つのに役立ってくれました。
でもそれって、結局「全部自分が悪い」と思うことになりませんか?


ここが大事なところです。「自分が悪い」と責めるのと、「自分に何ができるか」を考えるのは別物です。
違いを表にすると、こうなります。
| 自分を責める問い | 次の手を考える問い |
|---|---|
| なんで私はダメなんだろう | 次に同じことが起きたら、何を変える? |
| 私が上司だから辞めたんだ | 私の手が届くことは、どれだった? |
| もう誰も信じられない | 残っている人と、今週いつ話す? |
左の問いは、気持ちが沈むだけで行動につながりません。 右の問いは、答えが「次にやること」になります。

自分への思いやりが、改善への意欲を支える
この使い分けに近い考え方を試した研究があります。 米国の大学生と一般の大人を対象にした、4つの実験です。
そのうちの1つでは、わざと難しいテストを受けてもらい、全員がうまくいかない状態にしました。 そのあと、3つのグループに分けています。
- 「難しかったのはあなただけじゃない」のように、自分への思いやりを促す言葉をかけたグループ
- 自信を高める言葉をかけたグループ
- 何も言わなかったグループ
次のテストに向けて、思いやりのグループは、ほかの2つより長く勉強しました。 失敗を責めずに受け止めるほうが、「次はうまくやろう」という気持ちが続きやすいようです。
出典:Breines & Chen(2012)"Self-Compassion Increases Self-Improvement Motivation" Personality and Social Psychology Bulletin
ちなみに、この実験の対象は大学生と一般の大人で、職場の上司ではありません。 それでも「責めるより、次の手を考える」という自分原因論の使い方と、向きは同じだと私は思っています。
研究で分かっていること
- 辞める理由は、給料・労働条件・人間関係などいろいろ
- 辞めた人の4割強は「上司や会社が何かしていれば辞めなかった」と答えた
- 職場とのつながりが弱い同僚や、転職活動をしている同僚がいると、本人も辞めやすい傾向がある
- 失敗を責めずに受け止めると、改善への意欲が続きやすい
次の退職を防ぐために、上司ができる3つのこと
ここからは、今日からできることです。 先にお伝えしておくと、退職は働く人の権利です。 目指すのは「引き止める」ではなく「辞めたくならない職場」です。
1. 自分から「最近どう?」と話しかける
さっきの調査では、36%が誰にも相談せずに辞めると決めていました。 待っているだけでは、部下の本音は聞こえてこないかもしれません。
出典:Tatel, C. & Wigert, B.(2024)"42% of Employee Turnover Is Preventable but Often Ignored" Gallup(2026年2月16日更新・2026年10月5日閲覧)
部下からの相談を待つのではなく、上司から声をかけてみてください。 5分の立ち話でもかまいません。
「最近、困ってることない?」の一言が、話すきっかけになります。
2. 辞めた直後こそ、残ったメンバーと話す
1人が辞めた直後は、残った人も「自分はどうしよう」と揺れていることがあります。 さっきの研究でも、転職活動をしている同僚がいると、本人も辞めやすい傾向がありました。
- 辞めた人の仕事を、誰がどう引き受けるかを一緒に決める
- 負担が増える人には、先に「ありがとう」と伝える
- 「不安なことがあれば言ってほしい」と、1人ずつに声をかける
3. 「緩衝材の人」に頼りきらず、面倒を拾う
私の失敗から学んだのは、空気をやわらげる役を1人に背負わせないことです。 その人がいなくなった時、職場が一気に崩れてしまうからです。
クレームの盾になる、ぶつかりの間に立つ、休みを先に取ってみせる。 こうした面倒は、上司が自分から拾うものだと私は考えています。
今日からできる3つのこと
- 部下1人に「最近どう?」と声をかける
- 辞めた人が出たら、残った人と1人ずつ話す
- 空気をやわらげる役を、1人に背負わせない

厳しいと感じていたスタッフに、思い切って理由を聞いたこともあります。答えを聞いて、印象ががらりと変わりました。
相手の事情は、聞いてみないと分かりません。 受け入れられなくても、理解できたら許せることもあります。
チームの「話しやすさ」をもっと知りたい人には、心理的安全性のつくりかたが入り口になります。 日本の職場向けに、言いたいことを言える空気のつくり方を説明した本です。
部下のやる気を支えたい人には、マネジャーの最も大切な仕事もあります。 仕事の小さな前進とやる気の関係を、研究をもとにまとめた本です。
自分を責めてつらい時は、1人で抱えない
部下の退職が続くと、上司のほうが心身ともに参ってしまうことがあります。 眠れない、食欲がないといった状態が続く時は、1人で抱えないでください。
厚生労働省には、働く人の心の健康のための「こころの耳」というサイトがあります。 相談の窓口も、そこから探せます。
- 「こころの耳 厚生労働省」で検索する
- 厚生労働省の「こころの耳」のページを開く
- ページの中の「相談窓口案内」を開き、電話・SNS・メールなどの窓口から選ぶ
窓口の名前や受付の時間は変わることがあります。使う前に、こころの耳のページで最新の案内を見てください。
よくある質問
部下が辞めたのは、やっぱり上司の責任ですか?
全部が上司の責任ではありません。 辞めた理由には、給料や休みのように、上司1人では決めにくいものも並んでいます。 そのうえで、自分の手が届くことを1つ見つけるのがおすすめです。
辞めると言ってきた部下を、強く引き止めるべきですか?
退職は働く人の権利なので、無理に引き止めることはおすすめしません。 理由を聞いて、職場で直せることがあれば直す。 そのうえで、気持ちよく送り出すほうが、残った人も安心しやすいと私は考えています。
連続で辞められて、自信がなくなりました。
その気持ち、よく分かります。私も薬剤師が1人になった時は、本当にきつかったです。
「なんで私は」ではなく「次に何を変える?」と問いを変えてみてください。 答えが、次にやることになります。
まとめ|部下が辞めても、自分を責めすぎなくていい
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- 部下が辞める理由は、給料・労働条件・人間関係などいろいろで、全部が上司のせいではない
- それでも、上司から声をかけることで変えられる部分はある
- 自分原因論は、自分を責める道具ではなく、次の手を考える道具
- 1人辞めた直後は、残ったメンバーと話すのが次の一手
部下の退職は、上司として成長するきっかけにもできます。
今日できることは1つだけです。 残っている部下の誰か1人に、「最近どう?」と声をかけてみてください。
