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部下が退職代行で辞めました。昨日まで普通に話していたのに、ひと言もなしです……。

朝いちばんに、会社の電話が鳴ります。 知らない会社の名前を名乗る人が、こう言います。 「ご本人の代わりに、退職のご連絡をしています」
こんな電話を受けたら、頭が真っ白になりませんか? 「そんなに私に言いにくかったのか」と、胸の奥がずしんと重くなりますよね。
この記事では、部下に退職代行を使われた時のショックの受け止め方が分かります。 会社として落ち着いて進める手順と、「言い出せない空気」がなかったかを振り返る5つの問いも紹介します。

私にも、部下が次々に辞めていった失敗があります。その反省も正直にお話しします。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。
人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。 最初の職場では失敗もあり、10人以上が辞めています。
部下に退職代行を使われたら|先に結論
先に結論です。ショックを受けるのは、それだけ部下とまじめに向き合ってきたからでもあります。 そのうえで、やることは3つに絞れます。
退職代行を使われた上司がやること
- 会社としての手続きは、人事や上の人と落ち着いて進める
- 「言い出せない空気」がなかったか、責めずに振り返る
- 残った部下に、今日のうちに声をかける
辞めた部下を責めても、自分を責め続けても、職場は良くなりません。 大事なのは「次に同じことが起きにくい職場」をつくることです。
退職は働く人の権利です。だから目指すのは、引き止めではなく「辞めたくならない職場」です。
退職代行を使う人は増えている|調査の数字
まず知っておいてほしいのは、退職代行は今や珍しいことではない、という事実です。 あなたの職場だけで起きている話ではありません。
株式会社マイナビの調査では、直近1年に転職した人のうち16.6%が退職代行を使っていました。 「退職代行を使って辞めた社員がいた」と答えた企業の割合も、年々上がっています。
出典:株式会社マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」(2024年・2026年11月8日閲覧)
| 年 | 退職代行で辞めた社員がいた企業 |
|---|---|
| 2021年 | 16.3% |
| 2022年 | 19.5% |
| 2023年 | 19.9% |
| 2024年1〜6月 | 23.2% |
出典:株式会社マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」(2024年・2026年11月8日閲覧)。インターネット調査で、個人800人と企業の担当者1,600人が回答。

別の調査もあります。 東京商工リサーチが6,425社に聞いたところ、2024年1月以降に退職代行を使った退職があった企業は8.7%でした。 大企業では21.3%、中小企業では7.8%です。
出典:株式会社東京商工リサーチ「企業の『退職代行』に関するアンケート調査」(2026年・2026年11月8日閲覧)
マイナビとは数字がだいぶ違いますよね。 聞いた会社の集め方や、聞いた期間が違うためと考えられます。 調査によって幅はありますが、「どこの職場でも起こりうる」とは言えそうです。

「うちの職場だけが特別にダメだった」と思い込まなくて大丈夫です。まず、そこから心を落ち着けてください。
部下はなぜ退職代行を使ったのか|本人が答えた理由
退職代行を使った理由で多かったのは、「言いにくさ」に関わるものでした。 同じマイナビの調査で、使った人が答えた理由の上位3つです。

| 退職代行を使った理由(上位3つ) | 割合 |
|---|---|
| 退職を引き留められた(引き留められそうだ)から | 40.7% |
| 自分から退職を言い出せる環境でないから | 32.4% |
| 退職を伝えた後トラブルになりそうだから | 23.7% |
出典:株式会社マイナビ「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」(2024年・2026年11月8日閲覧)。割合は退職代行を使った人の答え。
これは、使った本人が答えた理由です。 「引き留め」や「空気」が原因だと証明したものではありません。 ただ、上司として耳が痛い言葉が並んでいるのも事実ですよね。
でも、うちの職場は言いにくい雰囲気なんてなかったと思うんですが……。


そう感じる上司は多いと思います。でも「言いにくさ」は、上司の側からは見えにくいものなんです。
こんな研究があります。 米国の働く人40人に聞き取りをしたところ、大半の人が「気になる問題があったのに上司に言わなかった」経験を持っていました。 黙っていた理由で多かったのは、悪く見られる怖さと、大切な関係が壊れる心配でした。
出典:Milliken, F. J., Morrison, E. W., & Hewlin, P. F.(2003)「An Exploratory Study of Employee Silence: Issues that Employees Don't Communicate Upward and Why」Journal of Management Studies
40人の聞き取りなので、全員に当てはまるとは言えません。 それでも、まじめな人ほど「関係を壊したくない」と黙ってしまうことはありそうです。 言いにくさの正体については、医療の心理的安全性の作り方でも詳しく書いています。
ショックの受け止め方|自分も相手も責めすぎない
最初にやってほしいのは、自分の気持ちに名前をつけることです。 悲しいのか、悔しいのか、少し腹が立っているのか。
正直、裏切られたような気持ちもあります……。


その気持ちも自然です。まずは否定せず、そのまま認めてあげてください。
私が1年目から大事にしてきた考え方に、「自分原因論」があります。 問題が起きた時、人のせいにせず「自分に何ができただろう」と考える習慣です。 他人のせいにしても、何も前に進まないからです。
ただし、これは自分を責め続けることとは違います。
辞める理由には、給料や家庭の事情など、上司の手が届かないものも混ざっています。 背負いすぎない考え方は、部下が辞めるのは自分のせい?にまとめました。
辞めた部下のことを、ほかのスタッフやSNSで悪く言うのはやめておきましょう。残った人は「辞めたら自分もこう言われる」と受け取ります。それが次の「言い出せない空気」になります。
相手の側から見ると、どうでしょうか? 退職代行を使った人は、楽をしたかったとは限りません。 「直接言ったら引き留められる」「顔を見たら言えなくなる」と思い詰めていたのかもしれません。
職場で次にやること①|会社としての手続きは落ち着いて
手続きは、上司1人で抱えずに会社として進めます。 ここでは一般的な流れだけを書きます。 法律の判断が要る所は、自分で決めずに専門家に相談してください。

- 上の人と人事に、すぐ報告する(1人で返事を決めない)
- 会社の決まり(就業規則)で、退職の手続きの流れを確かめる
- 代行の会社とのやり取りの窓口を、1人に決める
- 返してもらう物(鍵・制服・社員証など)と、渡す書類を書き出す
- 条件の話や法律が絡みそうな話が出たら、人事や専門家に相談する
代行の会社から条件の話が出ることもあります。 そこで上司がその場で答えると、あとで食い違いの元になります。 「会社として確認して、改めてお返事します」と伝えるだけで十分です。
会社として迷った時は、厚生労働省の「総合労働相談コーナー」で相談できます。探し方:①「総合労働相談コーナー」で検索 ②厚生労働省のページを開く ③都道府県の一覧から、職場がある県の窓口を探す。
引き継ぎも大事です。 辞めた人の仕事を、残った人に黙って上乗せしていませんか? 仕事の分け直しは、残った部下と話して決めたいところです。
職場で次にやること②|「言い出せない空気」を振り返る5つの問い
次に、職場の空気を振り返ります。 犯人探しではなく、「次の人が言い出しやすいか」を確かめる時間です。
振り返りの5つの問い
- 部下の「つらい」を最後に聞いたのは、いつだったか
- 「辞めたい」と言われた時、引き止めの言葉が先に出ていなかったか
- 忙しい時、話しかけにくい顔や態度をしていなかったか
- 辞めた人のことを、職場で悪く言ったことはなかったか
- 「辞める時は誰に・いつ・どう伝えるか」が見えていたか
1つでも引っかかったら、それが次の一手のヒントです。 私自身も、全部に胸を張って「大丈夫」とは言えません。
2つ目の問いは、特に大事です。 調査で一番多かった理由が「引き留め」でしたよね。
引き止めのしかたについては、退職の引き止めはしていい?で、最初のひと言を書いています。
全部当てはまる気がしてきました……。


気づけた時点で、もう一歩前に進んでいます。全部を一度に変えなくて大丈夫です。
私の失敗|緩衝材が抜けて、薬剤師が5人から1人に
正直に言うと、私にも部下が次々に辞めていった失敗があります。 1社目の薬局で、3年目の冬のことです。
その店には、スタッフどうしの間に立ってくれる「緩衝材」のような事務スタッフがいました。 その人が辞めたことをきっかけに、スタッフどうしの衝突が増えていきました。 そこから退職が続き、5人いた薬剤師は、最後は私1人になりました。
当時の私は、店を回すことで精一杯でした。 人は忙しさには耐えられても、忙しさから来る人間関係の悪化には耐えにくい。 その時に身にしみたことです。

今思えば、一番気を遣ってくれていた人が、一番しんどかったのかもしれません。
「退職がうつる」ことを示した研究もあります。 米国の銀行45支店と、接客業の1,038部署を調べた研究です。 同僚が転職活動をしていたり、職場への結びつきが弱かったりすると、本人が辞める可能性を説明する力が上乗せされていました。
出典:Felps, W., Mitchell, T. R., Hekman, D. R., Lee, T. W., Holtom, B. C., & Harman, W. S.(2009)「Turnover Contagion: How Coworkers' Job Embeddedness and Job Search Behaviors Influence Quitting」Academy of Management Journal
もちろん、1人辞めたら必ず続く、という意味ではありません。 でも、1人の退職のあとに残った人をどう支えるかは、とても大事だと分かります。
1人になってから、私は特別な仕組みを作ったわけではありません。 周りに頼ることが増えて、残業も増えました。 ただ、1年目から続けてきた「いいところを口に出す・感謝を先に伝える」だけは、やめませんでした。
職場で次にやること③|残った部下に「ありがとう」を伝える
最後にやることは、とてもシンプルです。 退職の連絡があった日こそ、残った部下に声をかけてください。
辞めた人は、辞める前にどんな声をかけられていたのでしょうか?
米国の調査で、過去1年に自分から辞めた717人に聞いたものがあります。 45%は、辞める前の3か月に、上司やリーダーから満足度や将来について声をかけられていませんでした。 42%は「上司か会社が何かしていれば辞めずに済んだ」と答えています。
出典:Gallup「42% of Employee Turnover Is Preventable but Often Ignored」(2024年・2026年11月8日閲覧)
もう1つ、「お礼」の力を調べた研究があります。 大学の募金の電話係が上司からお礼を言われると、1週間にかける電話の数が50%以上増えたそうです。 著者たちは、お礼が効いたのは「自分は大切にされている」と感じられたからだ、と考えています。
出典:Grant, A. M., & Gino, F.(2010)「A Little Thanks Goes a Long Way: Explaining Why Gratitude Expressions Motivate Prosocial Behavior」Journal of Personality and Social Psychology
この研究は、頑張りが増えることを調べたもので、退職を防ぐ効果までは調べていません。 ただ、私の現場の感覚とはよく合います。
1社目の1年目、1年続かないと言われていた店で、スタッフのいいところを口にし続けたら、その時は辞める人が止まりました。
今日かける言葉の例
- 「急に仕事が増えてごめんね。いつもありがとう」
- 「困っていることがあったら、小さなことでも聞かせてほしい」
- 「昨日の受付の対応、助かりました」のように、どの仕事かを具体的に伝える

残った部下が安心して働けると、お客さまへの対応も落ち着きます。 人が辞めにくい職場は、経営者にとっても助かる職場です。 内側の「ありがとう」が、外のお客さまにもつながっていきます。
よくある質問
退職代行を使った部下に、直接連絡してもいいですか?
まずは会社の方針に合わせてください。 代行の会社から「本人への連絡は控えてほしい」と伝えられることもあります。 直接連絡するかどうかは、人事や上の人と決めるのが安全です。
チームのみんなには、どう伝えればいいですか?
いつ付けで退職されるか、という事実だけを短く伝えます。 辞めた理由の推測や、本人への不満は話しません。 そのうえで、仕事の分け直しを一緒に考えたいと伝えましょう。
自分のマネジメントが全部悪かったのでしょうか?
全部ではありません。 辞める理由には、上司の手が届かないものもたくさんあります。 振り返るのは「責めるため」ではなく「次の人のため」です。
まとめ|明日の朝、職場で変わること
部下に退職代行を使われるのは、本当にこたえます。 でもそのショックは、あなたが部下と向き合ってきた証拠でもあります。
- 退職代行は、どこの職場でも起こりうる(調査によって幅がある)
- 使った理由の上位は「引き留め」と「言い出せない環境」
- 手続きは会社として落ち着いて進め、法律の判断は専門家へ
- 5つの問いで「言い出せない空気」を責めずに振り返る
- 残った部下に、今日のうちに「ありがとう」を伝える
明日の朝、いつもより少しだけ早く職場に入ってみてください。 そして残ってくれた部下に、「いつもありがとう」とひと言かけてみてください。 その一言が、次の人が「辞める前に相談できる」職場への最初の一歩になります。
