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「それ、前のやり方のほうが早いですよ」 朝の打ち合わせで、20歳年上の部下にそう言われて、次の言葉が出てこない。
こんな場面、ありませんか?
年上の部下に、どう指示を出せばいいか分かりません。強く言えば角が立つし、遠慮すれば仕事が回らないし……。

上司になったばかりの人ほど、ここで手が止まりますよね。 この記事では、年上の部下との関係がこじれやすい理由と、敬意と指示を両立させる3つのコツが分かります。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
新卒で責任者になった職場は、まわりが先輩ばかりでした。 そこで失敗もしながら学んだことを、研究の話とあわせてお伝えします。
年上の部下との接し方の結論|「役割」と「敬意」を分けて考える
先に結論です。指示を出すのは役割、ていねいに接するのは敬意。この2つは別物です。
年上の部下に気をつかうあまり、指示まで弱くしてしまう人は少なくありません。 逆に、上司らしくしようとして、言葉まで強くなってしまう人もいます。
どちらも、役割と敬意を1つにまとめてしまうことから起きます。 分けて考えると、こうなります。
| 中身 | 年上の部下への向き合い方 | |
|---|---|---|
| 役割 | 何を・いつまでに・なぜやるか | 上司としてはっきり決めて伝える |
| 敬意 | 経験・やり方・気持ちへの向き合い方 | 年齢や経験への感謝をことばと行動で示す |
指示ははっきり、伝え方はていねいに。 これなら、遠慮しすぎることも、上から押さえつけることも避けやすくなります。

上司は「偉い人」ではなく「決める役の人」です。私も、立場は役割が違うだけだと考えて現場に立っていました。

年上の部下が「めんどくさい」と感じる理由|研究で分かるわだかまりの正体
年上の部下を「めんどくさい」と感じても、あなたの性格のせいとは限りません。 年齢と役職の順番が逆になること自体が、わだかまりを生みやすいと分かってきています。
年齢差が大きい会社ほど、負の感情が多い傾向
ドイツの61社・約8,000人の社員に聞いた研究があります。 年下の上司と年上の部下の年齢差が大きい会社ほど、怒りや恐れなどの負の感情が多い傾向がありました。 そうした会社は、財務や効率などの業績の数字も低い傾向でした。
ただし、これは会社ごとに比べた1時点の結果です。 「年下の上司が業績を下げる」という意味ではありません。
研究者は、年齢と立場の順番が逆になることへのわだかまりを原因として挙げています。 また、部下が感情を表に出す会社でだけ、この関係が見られました。
出典:Kunze, F., & Menges, J. I.(2017)「Younger supervisors, older subordinates: An organizational-level study of age differences, emotions, and performance」Journal of Organizational Behavior
「なら感情を出させなければいい」とは考えないでください。研究者自身が、我慢を長く続けると健康を損なうと注意しています。
期待の低さと評価の低さは、両方向に起きうる
別の研究では、年上の部下は年下の部下よりも、年下の上司への期待が低い傾向がありました。 そして、年下の上司のリーダーシップを低めに評価していました。
出典:Collins, M. H., Hair, J. F., & Rocco, T. S.(2009)「The Older-Worker-Younger-Supervisor Dyad: A Test of the Reverse Pygmalion Effect」Human Resource Development Quarterly
一方通行ではありません。オランダの会社1社で上司と部下295組を調べた研究があります。 年下の上司は、年上の部下の専門性を低めに評価する傾向がありました。
出典:Scholarios, D., & Van der Heijden, B. I. J. M.(2021)「Supervisor-Subordinate Age Dissimilarity and Its Impact on Supervisory Ratings of Employability: Does Supportive Learning Context Make a Difference?」Frontiers in Psychology
研究で分かっていること
- 年齢と役職が逆になると、わだかまりが生まれやすい
- 年上の部下は、年下の上司を低めに見やすい
- 年下の上司も、年上の部下を低めに見やすい
- どれも傾向の話で、実際の力が低いという意味ではない
つまり、年上の部下を「使えない」と感じる時、その見方に偏りが入っている可能性もあります。 その気持ちを否定する必要はありません。 「もしかしたら自分の見方にも偏りがあるかも」と、一歩引いてみるだけで十分です。
年上の部下と働く場面は、これからも珍しくなくなりそう
総務省の統計では、65歳以上で働く人は943万人です。 働く人全体の13.8%で、どちらもこれまでで最も多い数字でした。
出典:総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-『敬老の日』にちなんで-(令和8年)」(2026年・2026年10月17日閲覧)
この数字は、年下の上司の下で働く人を数えたものではありません。 それでも、年上の部下と働く場面は、どの職場でも珍しくなくなりそうです。
年上の部下は上司に何を求めている?|日本の調査で見える答え
心強い数字もあります。 日本の調査では、年下の上司も年上の部下も、76%が「仕事はやりやすい」と答えました。 出典:サイボウズ チームワーク総研「『年上の部下へのマネジメント』に関する意識調査」(2023年・2026年10月17日閲覧)
調べたのは、年上の正社員の部下がいる課長〜部長相当1,500人です。 もう1つは、上司が年下の50代の正社員1,000人でした。
あなたの職場の年上の部下は、上司のどこを見ていると思いますか? 部下の側に、年下の上司のよいところを聞いた結果が次の図です。

いちばん多かったのは「上から目線がない」でした。 部下の側の43.2%は、上司に必要なこととして「部下の話を聞く」を選んでいます。 出典:サイボウズ チームワーク総研「『年上の部下へのマネジメント』に関する意識調査」(2023年・2026年10月17日閲覧)
敬語は、上司が思うほど重く見られていない
おもしろいのは、敬語についての答えです。 「敬語・ていねいな言葉づかい」が必要だと答えたのは、上司側41.9%、部下側27.7%でした。 出典:サイボウズ チームワーク総研「『年上の部下へのマネジメント』に関する意識調査」(2023年・2026年10月17日閲覧)

ここから言えそうなのは、言葉の形より態度が大事だということです。 1社の調査なので、すべての職場に当てはまるとは言えません。 それでも、この調査では、年上の部下は敬語より「上から目線でないか」を見ている傾向がありました。
敬語はちゃんと使ってるのに、なんだか距離があるんですよね……。


言葉はていねいでも、話をさえぎったり聞き流したりすると、上から目線は伝わってしまいます。
1年目で年上ばかりの職場の責任者になった私の話
ここからは、私自身の話です。 新卒1年目で、管理薬剤師として配属されました。 管理薬剤師は、薬局の責任者のことです。
「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」
配属先は、グループの中でも忙しい薬局でした。 マニュアルはなく、「見て覚えろ」の職場です。
分からないことを先輩に聞くたびに、冷たい言葉が返ってきました。 「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」 元気な挨拶さえ「うるさいです」と言われました(笑)。
正直、心が折れそうでした。 でも私は、「できない自分が変わるしかない」と決めていました。 分からなかったことはメモし、家に帰って毎日勉強しました。
肩書きだけ上で、中身が追いついていない……。今の私と同じです。


最初はそれで当たり前です。大事なのは、肩書きで相手を動かそうとしないことでした。
知識でマウントを取らないと決めた
薬剤師は薬局で「先生」と呼ばれます。 でも私は、薬剤師も事務も、役割が違うだけだと考えていました。
だから、薬の知識で相手より上に立とうとはしませんでした。 知識で張り合っても、先輩たちの信頼は得られないと思ったからです。
実は失敗もしています。
着任してすぐ、店の収入になる取り組みを、みんなで進めようと呼びかけました。 返ってきたのは「これ以上仕事を増やさないでください」という声でした。
信頼がないうちに、正しいことを言っても届かない。これが、年上の部下と働くうえでいちばんの学びでした。
面倒な「環境作り」を拾った
次に私がしたのは、誰もやりたがらない面倒を拾うことでした。 といっても、掃除やレジ締めのような作業ではありません。 それは事務スタッフが毎日きちんとこなしてくれていました。
私が拾ったのは、次のようなことです。
- 待合室で怒鳴り声がしたら、いちばんに出て行ってクレームの盾になる
- 薬剤師同士のギスギスした摩擦を取る
- 薬を集めるルールが無く記憶頼りだったので、処方せんのコピーに似た名前の薬の注意や確認した人の名前を書き込む仕組みを作る
- 業務後の勉強会を減らし、要点を共有する時間を業務時間の中に作る
クレームの時は、頭を下げるだけでなく「たくさんうちの薬局を見ていただき、ありがとうございます」と感謝で返しました。 謝るだけだと、こちらが下の立場になります。 感謝を添えると、相手を応援してくれる側に近づけられたからです。
ただし、これはふつうの苦情の話です。 暴言や長時間の居座りのような行き過ぎた要求は、1人で盾になって受け止めるものではありません。会社として線を引き、複数の人で対応するのが基本です。
経験の長い先輩には、そのスキルを本気で頼りました。 ご機嫌を取るのではありません。
頼るところは頼り、最後の責任は自分が取る。これを行動で見せ続けました。
「先生って何でも助けてくれますね」
少しずつ、店の空気がやわらいでいきました。 スタッフから「先生って何でも助けてくれますね」と言われた時は、うれしかったです。 「今まで気にかけてもらったことはなかった」という言葉もありました。
大きな改善ができたわけではありません。 それでも、相手の苦労を分かろうとする姿勢は伝わるのだと知りました。
関係ができてから、最初に反対された取り組みにもう一度挑戦しました。 今度は受け入れてもらえて、その取り組みだけで月に約50万円の利益アップになりました。

人は自分の苦労を重く、周りの苦労を軽く見がちです。だからこそ、上司が先に分かろうとすると届くんだと思います。
年上の部下への指示・指導の伝え方|今日からできる3つのコツ
ここまでの研究と経験から、今日からできるコツを3つにまとめます。 どれも、役割ははっきり、敬意はていねいに、の形です。
コツ1|指示の前に「経験」を聞く
いきなり「こうしてください」と言う前に、ひと言聞いてみてください。 「この仕事、どう進めるのがいいと思いますか?」
相手の経験を聞くことは、それだけで敬意になります。 調査でも、年上の部下は「聞く耳」を上司のよいところに挙げていました。
そのうえで、最後に決めるのは上司です。 聞くことと、決めることは分けて大丈夫です。
コツ2|「何を・いつまでに・なぜ」をはっきり言う
遠慮して、指示があいまいになっていませんか? 「できたらでいいので」は、年上の部下をかえって迷わせます。
何を、いつまでに、なぜやるのか。この3つは、はっきり伝えます。 特に「なぜ」があると、経験のある人ほど自分で考えて動いてくれます。
コツ3|面倒を先に拾い、感謝をことばにする
部下の負担を1つ取る。そして、やってくれたことに「ありがとう」と言う。 これが、年上の部下の信頼をいちばん積み上げやすいと感じています。
承認についての研究もあります。 約3,400〜3,500人の社員を2年間追いかけた調査です。 質の高い承認を受けた社員は、2年後に辞めている割合が45%低い傾向がありました。
出典:Gallup・Workhuman 「The Human-Centered Workplace: Building Organizational Cultures That Thrive」(2024年・2026年10月17日閲覧)
これは、承認が離職を防いだと証明したものではありません。 それでも、認めて伝えることの大切さを考えるきっかけになる数字です。
今日からできるチェック
- 指示の前に「どう進めますか?」と聞いたか
- 何を・いつまでに・なぜ、を言ったか
- 年上の部下の面倒を1つ拾えたか
- 「ありがとう」を具体的に言えたか
部下のやる気が見えにくい時の声かけは、部下のやる気がない時、上司がやってはいけない3つのことにもまとめています。
感謝で回すと、上司も経営者も報われる
年上の部下との関係は、上司と部下の2人だけの話ではありません。 現場が落ち着くと、経営者もお客さまも得をします。
私の最初の職場でも、店の空気が変わってからクレームはほとんどなくなりました。 役員からは「薬局の雰囲気が明るくなった」と言ってもらえました。
年上の部下とうまくいくと、上の人からの見え方も変わるんですか?


変わりました。現場の声は、思っている以上に経営者の耳に届きます。
スタッフからのよい評判が本部にも届き、経営者からの評価も上がりました。 責任者が感謝で回すと、経営者・責任者・スタッフの3者がそれぞれ報われます。 その先に、お客さまと世の中の得がつながっていきます。
近江商人の心得として知られる「売り手よし・買い手よし・世間よし」と同じ考え方です。 社内だけ、会社だけが得をする形では長続きしにくいと、私は感じています。
職場全体で辞める人を減らしたい方は、医療・薬局の離職率を下げる方法も参考にしてください。
もっと深く「上下ではない人付き合い」を考えたい人には、嫌われる勇気という本があります。 人間関係を縦ではなく横の関係で考える、アドラー心理学を対話の形で説明した本です。
よくある質問
年上の部下には敬語を使うべきですか?
使って困ることはありませんが、敬語だけで関係が良くなるわけではありません。
調査では、部下の側が年下の上司のよいところに「上から目線がない」を多く挙げた一方、敬語が必要だと答えた人は3割ほどでした。 言葉づかいより、話を聞く態度を大事にしてください。
年上の部下が指示に従ってくれない時は?
まず、指示の「なぜ」が伝わっているかを見直してみてください。 そのうえで、相手のやり方を聞き、取り入れられる所は取り入れます。 それでも決めたことは、上司として最後まで伝え続けて大丈夫です。
年上の部下を「使えない」と感じてしまいます
その気持ちを持つこと自体は、責めなくて大丈夫です。 研究では、年下の上司が年上の部下を低めに評価しやすい傾向も見られています。 一度、相手の得意なことを3つ書き出してみると、見え方が変わるかもしれません。
年上の部下との関係に疲れてしまいました
上司が1人で抱えこむと、どこかで限界が来ます。 同じ立場の管理職や、信頼できる上の人に話してみてください。 心の疲れが続く時は、厚生労働省の「こころの耳」で「こころの耳 相談窓口」と検索すると、電話やメールの相談先が探せます。
疲れの正体を整理したい方は、管理薬剤師に疲れたあなたへも読んでみてください。
まとめ|明日の朝、年上の部下にかけるひと言
年上の部下との接し方は、遠慮か強気かの二択ではありません。
- 指示は役割としてはっきり伝える
- 経験への敬意は、聞く耳と感謝で示す
- 年齢と役職が逆になると、お互いを低めに見やすいと知っておく
明日の朝、年上の部下に1つだけ聞いてみてください。 「この仕事、どう進めるのがいいと思いますか?」
その答えを聞いてから、上司として決める。 それだけで、指示を出す朝が少し楽になるはずです。
上下ではない人付き合いを深く考えたい方は、先ほど紹介した『嫌われる勇気』もどうぞ。
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