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「何回言ったら分かるの!」 自分の声が思ったより大きく響いて、職場の空気がすっと止まる。
帰り道、ふと不安になる。 「今のって、パワハラだったのかな」。こんな夜、ありませんか?
部下のために言っているつもりなんです。でも最近は、注意するのも怖くなってきて……。

この記事では、パワハラと指導の違いを、厚生労働省が示す「3つの要素」と「6つの型」で整理します。 指導のつもりで出がちな言葉と、その言い換えも表にしました。
迷った時に自分に聞く問いと、相談できる窓口も分かります。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
パワハラと指導の違いの結論|「仕事に必要な範囲」かどうか
先に結論です。 仕事に必要で、ふさわしい範囲の指導は、パワハラではありません。
厚生労働省は、パワハラを次の3つをすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動(上司と部下など、断りにくい関係の中での言動)
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 就業環境が害される(働く環境がこわされる)
あわせて、こうも書かれています。 「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しません。」
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」パワーハラスメントの定義(2026年10月28日閲覧)
根拠になる法律は、労働施策総合推進法です。 つまり、注意すること自体をこわがる必要はありません。
分かれ目になりやすいのは2つ目、「必要な範囲を超えていないか」です。

上司は部下より立場が上です。だから1つ目は、ほぼいつも当てはまると思っておくと安全です。
ここで書くのは判断の目安です。個別のケースがパワハラに当たるかは、最後は裁判所などが判断します。この記事では「当たる」「当たらない」と決めつけません。

「指導のつもり」が通らない6つの型
厚生労働省は、パワハラの代表的な形を6つに分けています。 名前と中身は次のとおりです。
| 6つの型 | どんなものか |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 手を出すなど、体への攻撃 |
| 精神的な攻撃 | 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 |
| 人間関係からの切り離し | 隔離・仲間外し・無視 |
| 過大な要求 | こなせないほど大きすぎる要求 |
| 過小な要求 | 仕事や力に比べて小さすぎる要求 |
| 個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入る |
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」パワーハラスメントの定義(2026年10月28日閲覧)
表の「身体的な攻撃」「過大な要求」「過小な要求」の説明は、名前の意味を私がかみくだいたものです。
大事なのは、6つの型は「よくある形」の分け方だということです。 型に近い言動でも、それだけでパワハラと決まるわけではありません。3つの要素をすべて満たすかで判断されます。
逆に言うと、型に近い言い方を「指導だから」で続けるのは危ないってことですね。


そうなんです。言った側が「指導のつもり」でも、受け取る側には型のどれかに見えることがあります。
指導のつもりで出がちな言葉と、言い換え
次の表は、職場で口から出やすい言葉を、私が6つの型に沿って並べたものです。 厚生労働省の例をそのまま写したものではありません。
| 型 | 指導のつもりで出がちな言葉・行動 | 指導として伝えるなら |
|---|---|---|
| 身体的な攻撃 | 丸めた書類で頭を軽くたたいて「しっかりして」 | 手は出さず、言葉で「今のところ、もう一度一緒に見よう」 |
| 精神的な攻撃 | みんなの前で「こんなこともできないなら辞めたら?」 | 1対1で「午前の確認が抜けていたね。次はどうする?」 |
| 人間関係からの切り離し | 「反省するまで話しかけないで」と、あいさつも返さない | 注意した後も、ふだんどおりに声をかける |
| 過大な要求 | 新人に「今日中に全部覚えて。できなきゃ帰らないで」 | 「今週はこの3つを覚えよう」と量と期限を区切る |
| 過小な要求 | 「もう何も任せない。今日は片づけだけしてて」 | 任せる範囲を小さくしても、理由と戻す道を伝える |
| 個の侵害 | 休みの日の過ごし方や家族のことを何度も聞く | 仕事に関わる体調や都合だけを、本人が話せる範囲で聞く |
左の列に共通するのは、行動ではなく「その人」に向いていることです。 もう1つは、相手に逃げ道がない形になっていることです。
右の列は、やさしいだけの言い方ではありません。 直してほしいことは、ちゃんと伝えています。

パワハラと指導の線引き|上司が迷った時の4つの問い
言う前に迷ったら、自分に4つの問いを投げてみてください。 これは法律の基準ではなく、私が考える目安です。
迷った時の4つの問い
- その言葉は、仕事をよくするためか。相手を罰するためか
- 「人」ではなく「行動」に向いているか
- 人前ではなく、1対1で言えているか
- 明日、同じ言い方を落ち着いた声でもう一度できるか
4つ目は、私がいちばん役に立つと思う問いです。 怒りにまかせた言葉は、次の日に同じ声では言えないことが多いからです。
逆に、4つとも「はい」なら、必要な指導まで遠慮しすぎることはないと私は考えています。 ただ、これは法律の基準ではありません。言い方や回数に迷う時は、下の相談先も使ってください。
でも、強く言わないと伝わらない部下もいると思うんです。


伝わらない時は、声を強くするより、伝え方を変えるほうが届きやすいと私は考えています。次の節で、研究の話をしますね。
叱る時の具体的な手順は、部下の叱り方にまとめています。
怒鳴る指導は効くのか|研究で分かっていること
「厳しく言ったほうが、人は伸びる」。 そう思っている上司は、少なくないかもしれません。でも研究を見ると、そうとは言いにくい結果が並んでいます。
失礼な一言で、課題の出来が下がった実験
大学生を対象にした3つの実験があります。 報道では合計275人が参加しました。
実験では、教授から失礼な言い方をされた人と、されなかった人を比べています。 3つの実験を通して、失礼な言い方をされた人は、文字の並べ替え問題を解いた数が減りました。アイデアの数と独創性も下がり、人を手伝う行動も減りました。
出典:Porath, C. L., & Erez, A.(2007)「Does Rudeness Really Matter? The Effects of Rudeness on Task Performance and Helpfulness」Academy of Management Journal
実験なので、「失礼な言い方が、出来を下げた」と言えます。 ただ、学生が1回だけ受けた短い場面の結果です。職場で長く続く場合を直接測ったものではありません。
敵意ある上司の言動は、悪い結果と一緒に起きやすい
もう1つは、たくさんの研究をまとめて分析した論文です。 部下が「上司から敵意のある言動を受けている」と感じていることと、さまざまな結果との関係を調べました。
調べた結果のどれとも、悪い方向の関係が見られたそうです。
出典:Mackey, J. D., Frieder, R. E., Brees, J. R., & Martinko, M. J.(2017)「Abusive Supervision: A Meta-Analysis and Empirical Review」Journal of Management
こちらは、ほとんどが「一緒に起きやすい」という関係の研究です。 怒鳴ったから悪くなった、とまでは言えません。
「言っても責められない」チームは、学ぶ行動が多かった
製造業の会社の51チームを調べた研究もあります。 「このチームではミスや疑問を口にしても責められない」とみんなが思えている状態を、心理的安全性と呼びます。
心理的安全性が高いチームほど、学ぶ行動が多く、それが成果につながっていました。
出典:Edmondson, A.(1999)「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」Administrative Science Quarterly
1社だけの調査で、これも一緒に起きやすいという関係です。 「怒鳴らなければ成果が上がる」とは言えません。
研究で分かっていること
- 失礼な言い方をされると、課題の出来や手伝う行動が下がった(実験)
- 敵意ある上司の言動は、悪い結果と一緒に起きやすい(研究のまとめ)
- 言っても責められないチームは、学ぶ行動が多かった(51チームの調査)
きつい言葉は、人を伸ばすより、出来や助け合いが下がることと結びつきやすい。 3つの研究を並べると、そんな傾向が見えてきます。
言えない職場をどう変えるかは、医療の心理的安全性の作り方で詳しく書いています。
パワハラの悩みは、どれくらいの職場にあるのか
パワハラは、一部の特別な職場だけの話ではありません。 国の調査を見ると、身近なことだと分かります。
厚生労働省の委託事業で、全国の企業と働く人を対象にした調査があります。 行われたのは令和5年12月〜令和6年1月です。
過去3年間に勤務先でパワハラを受けた経験がある人は19.3%でした。 セクハラは6.3%、顧客などからの著しい迷惑行為は10.8%です。
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」令和5年度(2024年)(2026年10月28日閲覧)

同じ調査で、過去3年間にパワハラの相談があった企業は64.2%でした。 調査に答えた会社の半分を超える会社で、相談が出ていたことになります。
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」令和5年度(2024年)(2026年10月28日閲覧)
全国の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は、令和6年度で1,201,881件でした。 そのうち、民事上の個別のもめごとの相談では「いじめ・嫌がらせ」が54,987件で、13年続けていちばん多い相談です。
出典:厚生労働省「令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(2025年)(2026年10月28日閲覧)
ちなみに、この「いじめ・嫌がらせ」の件数は、パワハラの件数と同じではありません。 数え方が別だからです。それでも、職場の人間関係で悩む人が多いことは伝わってきます。

あなたの職場に悩んでいる人がいても、おかしくない数です。だからこそ、上司が先に気づける側でいたいですね。
怒鳴る管理者が続いた職場を、立て直した時のこと
ここからは、私の現場の話です。 転職して着任した店は、店の責任者(管理薬剤師)が1年ごとに代わっていました。
前の責任者の中には、すぐに怒鳴る人もいたそうです。 業務はなかなか改善されず、事務スタッフも次々に辞めていく状態でした。
着任して最初にしたこと
その店には、未経験から入った事務スタッフが多くいました。 私の役目は、スタッフを育てることと、店の仕組みを見直すことでした。
特別な技を使ったわけではありません。 スタッフを育て、仕組みを見直し、泥臭く環境を整え続けました。
正直に言うと、ここに来る前の最初の職場では、失敗もあって10人以上が辞めています。 最後の2年は、辞める人はいませんでした。
それに私自身、1年目の職場で冷たい言葉を浴びる側でした。 「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」。責められる職場のつらさは、身をもって知っていました。
5年後に、職場で起きていたこと
着任してからの5年間で、店の空気は大きく変わっていきました。 患者さんが、通院の日以外にも相談やお菓子を持って来てくれる店になりました。
いちばんうれしかったのは、スタッフの動きです。 産休や育休に入る人が出ると、スタッフが自分の知り合いを代わりに紹介して、つないでくれるようになりました。
私が薬局を退職する最終日には、私が着任する前からいた事務スタッフに、こう言われました。 「ほりけんさんのお陰で私の人生が変わりました。出会ってくださって、本当にありがとうございます」。
もちろん、店が変わった理由は1つではありません。 スタッフ一人ひとりの頑張りがあってのことです。ただ、泥臭く環境を整え続けたことが、少しずつ積み重なったと私は思っています。

感謝で回すって、甘やかすこととは違うんですか?


違います。直してほしいことは伝えます。そのうえで、相手のいいところも口に出す。私は1年目からそれを続けてきました。
働きやすい職場はスタッフのためだけではありません。 人が定着すると、患者さんへの対応も安定し、経営者にとっても採用や教育の手間が減りやすくなります。上司・スタッフ・経営者、そしてお客さまの全員にいい形です。
部下から「パワハラでは」と言われたら|上司が最初にすること
もし部下から「それ、パワハラだと思います」と言われたら、どうしますか? まずは、言い返さずに受け止めることです。
- 「話してくれてありがとう」と伝える
- どの言葉や行動がつらかったのかを、さえぎらずに聞く
- その場で白黒をつけようとしない
- 会社の相談窓口や人事など、決められた手順があればそれに沿って動く
言いにくいことを言ってくれた部下は、まだ職場をあきらめていない人かもしれません。 責めるより、話してくれたことにお礼を言うほうが、その後の関係を守れます。

迷った時の相談先
自分の指導が行き過ぎていないか不安な時、部下から相談された時は、一人で決めなくて大丈夫です。 国の無料の窓口として、総合労働相談コーナーがあります。全国の労働局と労働基準監督署の中に、379か所あります。
探し方は次のとおりです。
- 「総合労働相談コーナー」で検索する
- 厚生労働省のページを開く
- 都道府県ごとの一覧から、自分の地域の窓口を探す
上司自身が疲れている時は、厚生労働省の「こころの耳」というサイトもあります。 「こころの耳」で検索すると、働く人の心の相談の窓口が見つかります。
よくある質問
大きな声で注意したら、それだけでパワハラになりますか?
それだけで決まるわけではありません。3つの要素をすべて満たすかで判断されます。ただ、大声や人前での注意は受け取る側を追い詰めやすいので、避けておくのが安全です。
注意するのが怖くて、何も言えなくなりました。どうすればいいですか?
仕事に必要でふさわしい範囲の指導は、パワハラではありません。人ではなく行動に向けて、1対1で落ち着いて伝えることを心がければ、必要な指導まで遠慮しすぎることはないと私は考えています。迷う時は、記事の中の相談先も使ってください。
部下の態度が悪くて、つい強く言ってしまいます。
強く言いたくなる時ほど、その場で言わずに少し時間を置いてみてください。落ち着いてから、場面と行動を具体的に伝えるほうが届きやすくなります。
まとめ|明日の朝、職場で変わること
パワハラと指導の違いは、声の大きさではありません。 仕事に必要な範囲かどうか、そして言葉が「人」と「行動」のどちらに向いているかです。
6つの型を知っておくと、「指導のつもり」が型に近づいた時に気づけます。 迷った時は、4つの問いを思い出してください。
明日の朝、注意したいことがあったら、まず1対1で「何があった?」と聞いてみませんか?
怒鳴らなくても伝わる。そう感じられる職場なら、部下も少しずつ相談しやすくなるかもしれません。
