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「社長、少しお時間いいですか」。 店長や課長からそう声をかけられて、胸がざわっとしたことはありませんか?
話の中身は、スタッフの退職の相談。 しかも、その管理職自身も、どこか疲れた顔をしている。 経営者なら、一度は見たことのある場面だと思います。
現場には何度も言っているのに、なぜか人が定着しないんです。

この記事では、社員が辞めない会社の経営者が何をしているのかが分かります。 カギは「管理職を支えること」です。 研究や調査で分かっていることと、私が管理職として経営者に支えられた経験を、分けてお話しします。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
つまり、経営者と現場のあいだに立つ側を、ずっとやってきた人間です。
社員が辞めない会社の経営者がしていること|結論は「管理職を支える」
先に結論です。 経営者が管理職を支え、管理職が現場を支える。
社員1人ひとりに、経営者が毎日声をかけるのは無理ですよね。 でも、管理職なら数人です。
その数人を大事にすれば、管理職を通じて現場に届いていく。私はそう考えています。

厳しく管理して数字で詰めても、人が動くのは短い間だけになりがちだと、私は考えています。 私が10年間の現場で見てきたのは、感謝で回る職場のほうが長く続く、ということでした。

経営者・管理職・スタッフの3者がそれぞれ報われる形を、私は「内の三方よし」と呼んでいます。
ただし、このあと紹介する研究は、どれも「関係がある」までしか言えません。 「これをすれば必ず辞めなくなる」という約束ではない点は、先にお伝えしておきます。
それと、退職は働く人の権利です。この記事は、引き止めの話ではありません。
日本の離職率はどのくらい?|まず数字を知る
まず、日本でどれくらいの人が辞めているのかを見ておきます。
2025年の離職率は13.7%で、前の年より0.5ポイント下がりました。 正社員などの一般労働者は11.4%、パートタイムで働く人は19.9%です。 離職率は、年のはじめにいた人のうち、1年間に辞めた人の割合です。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」(2026年8月31日公表・2026年10月18日閲覧)

ざっくり言うと、1年で7〜8人に1人が職場を離れている計算です。 あなたの会社の数字と比べて、どうでしょうか?
うちの会社の離職率、ちゃんと計算したことがないかもしれません。


まずは去年1年で何人辞めたかを書き出すだけで十分です。人数が見えると、次に何をするかを考えやすくなります。
これは国全体の数字で、経営者や上司のかかわり方との関係までは示していません。 医療や薬局の職場の数字と、辞めたくならない職場の条件もまとめています。 詳しくは医療・薬局の離職率を下げる方法をどうぞ。
社員が辞めない会社のヒント1|チームの熱意の差は管理職と強く結びついている
1つ目のヒントは、チームの熱意の差が、管理職と強く結びついていることです。
米国の調査会社 Gallup は、20年分、2,700万人の働く人の調査を分析しました。 すると、部署ごとの「仕事への熱意」の点数の違いのうち、少なくとも70%は管理職で説明できる、という結果でした。
出典:Beck, R. & Harter, J.(2015)Gallup Business Journal の記事(もとは報告書「State of the American Manager」2015年・2026年10月18日閲覧)
注意したいのは、これが社員の人数の割合ではない点です。 部署どうしの差の大部分が、管理職とセットで動いている、という意味です。 「管理職を替えればその分よくなる」という話でもありません。
経営者・管理職・社員の熱意は、一緒に動く傾向がある
もう1つ、経営者にとって見逃せない調査があります。 190業種のデータと、管理職2,564人を分析したものです。
熱意の高い経営陣のもとの管理職は、熱意の低い経営陣のもとの管理職より、熱意が高い割合が39%多かったのです。 熱意の高い管理職のもとの社員も、同じく59%多かったと報告されています。
出典:Adkins, A.(2015)Gallup Workplace の記事(2015年4月2日公開・2026年10月18日閲覧)
比べたのは、熱意がとても高い経営陣と、とても低い経営陣の両端です。 だから「経営者の姿勢が、そのまま管理職に移る」とまでは言えません。 それでも、上から下へ一緒に動く傾向がある、とは言えそうです。
つまり、まず経営者が元気でいないといけない、ということですか?


私はそう感じています。管理職は、経営者の顔色をいちばん近くで見ている人たちですから。
社員が辞めない会社のヒント2|米国では、辞めた人の4割が「防げた」と答えている
2つ目のヒントは、自分から辞めた人の4割ほどが「上司か会社が何かしていれば辞めなかった」と振り返っていることです。
過去1年に自分から辞めた米国の717人に聞いた調査があります。 42%が「上司か会社が何かしていれば、辞めなかった」と答えました。 そして45%は、辞める前の3か月に、上司からも経営陣からも仕事の様子を聞かれていませんでした。
出典:Tatel, C. & Wigert, B.(2024)Gallup Workplace の記事(2024年7月9日公開・2026年2月16日更新・2026年10月18日閲覧)
「止められた」と答えた人に、その理由を聞いた結果が次の図です。

給料の次に多いのが、上司との関係です。 辞めた人が振り返った時に、お金だけでなく上司とのかかわりも理由に挙げている、と読めます。
これは辞めた本人が振り返った答えです。 声をかければ本当に止められたかまでは、証明していません。 それでも、半数近くが3か月のあいだ上司にも経営陣にも様子を聞かれていなかった、という数字は重く感じます。

経営者が全員と話すのは大変です。だからこそ、話す役の管理職に時間と余裕を渡したいところです。
辞める前に出やすい小さな変化は、医療・薬局のスタッフが辞める前兆の記事でまとめています。
社員が辞めない会社のヒント3|上司の支えは「会社の支え」として伝わりやすい
3つ目のヒントは、上司の支えが「会社の支え」として社員に伝わりやすい、という研究です。
上司に大事にされていると感じる社員は、会社にも大事にされていると感じやすい。 その結果、辞めにくくなる。 こんな流れを調べた研究があります。
いろいろな会社の314人と、小売りの販売員300人・493人を対象にした3つの研究です。 3つ目では、実際に辞めたかどうかまで追いかけました。 上司が「会社を代表する人」と見られているほど、このつながりは強くなっていました。
出典:Eisenberger, R., Stinglhamber, F., Vandenberghe, C., Sucharski, I. L., & Rhoades, L.(2002)「Perceived supervisor support: Contributions to perceived organizational support and employee retention」Journal of Applied Psychology
研究の著者も「この考え方と矛盾しない」という表現にとどめていて、因果までは示していません。 ただ、経営者にとってのヒントはあります。
管理職を立てて、会社の顔として扱うと、管理職の気づかいが「会社の気づかい」として届きやすくなるかもしれません。
認められている社員は、辞めにくい傾向がある
認めること、つまり「ちゃんと見ているよ」と伝えることも、定着とつながっていました。 約3,500人を2022〜2024年に追いかけた調査では、よく認められている社員は、2年後に辞めている割合が45%低かったのです。
出典:Yi, R.(2024)Gallup Workplace の記事(Gallup と Workhuman の共同調査・2024年9月18日公開・2026年10月18日閲覧)
共同で調べた Workhuman は、社員を認める仕組みを扱う会社です。 その点は割り引いて読む必要があります。 それでも、認めることを「おまけ」と考えないほうがよさそうです。

管理職を認める経営者がいて、部下を認める管理職がいる。この順番が大事だと、私は思っています。
経営者に支えられた管理職は、どう変わるか|私の経験
ここからは、研究ではなく私の経験です。 私は管理職として、経営者側から「信用を失った昇給」と「支えられた昇給」の両方を受け取りました。
信用を失った昇給
1社目の3年目、私は他社から年収600万円の話をもらっていました。 それを社内でつい漏らしてしまい、経営者に呼ばれます。 「600万円に上げよう」と言われ、年収は上がりました。
でも、社長室を出た私の心は、まったく晴れませんでした。 経営者の少し冷めた目を見て、3年間で積み上げた信用が一気に減ったと分かったからです。 正直に言うと、会社を脅して給料を上げさせたのと同じでした。
「いつも、ありがとう」と言われた昇給
その冬、職場の緩衝材だったスタッフが辞めたことをきっかけに、退職が続きました。 5人いた薬剤師は、最後は私1人になりました。 昼休みは取れず、高い熱が出ても出勤していました。
そんなある日、気にかけてくれていた60代の役員に呼ばれます。 「お前が今、どれだけあの店を支えてくれてるか、痛いほど分かってる」。 そう言って、年収800万円への昇給と、あと1年半は辞めないでほしいという話をしてくれました。

いつもは冷静に話す私が、このときだけは泣きました。 「毎日つらくて、職場への足が重いです」と打ち明けると、役員は「いつも、ありがとう」と言ってくれました。 後で知ったのですが、役員は本部にかけ合って、その昇給を取ってきてくれていたのです。
同じ昇給でも、受け取る側の気持ちがそんなに違うんですね。


まったく違いました。2回目は「この人に報いたい」と思い、そこからは現場のことだけを考えて動きました。
その後、店にはまた落ち着きが戻り、薬剤師も4人まで増えました。 1社目では、失敗もあり10人以上が辞めています。 そこから変えたことで、最後の2年は辞める人がいませんでした。
転職後の店では、着任前は事務スタッフが次々に辞めていました。 5年後には、産休の代わりを、スタッフが自分の知り合いを紹介して埋めてくれる職場になっていました。
退職の前には、その店の経営者から、経営を引き継がないかと声をかけてもらいました(お受けはしませんでした)。
管理職が感謝で現場を回すと、現場のよい評判が経営者に届きます。 経営者も得をする。これは私が、1社目と転職後の店の両方で、管理職として実感したことです。
経営者が今日からできる、管理職を支える3つのこと
ここまでの研究と経験から、経営者が管理職にできることを3つにしぼりました。 管理職への感謝は、言葉と待遇の両方で渡す。
| すること | 具体的には | 管理職から見ると |
|---|---|---|
| 1. 具体的に「ありがとう」を言う | 「あのクレームを引き受けてくれて助かった」と、行動を名指しで | 見てくれている、と分かる |
| 2. 定期的に話を聞く | 月に1回、数字ではなく「最近どう?」から始める | 弱音を言える場所ができる |
| 3. 認める時間と権限を渡す | 部下と話す時間・休みを回す裁量・小さな予算を任せる | 部下を大事にする手段が持てる |
1. 行動を名指しして「ありがとう」を言う
「いつもありがとう」だけでも、言わないよりずっといいです。 そこに「何に」を足すと、見てくれていると伝わります。 あの日、役員は「いつも、ありがとう」の前に、「この前も高熱だったのに出勤してくれたでしょう」と、私の行動を具体的に言ってくれました。
ただ、まねしてほしいのは「行動を名指しする」ところです。 体調が悪い日に出勤したことを褒めるより、休める体制を作るほうが、本当の支えになります。
2. 管理職の話を、数字の前に聞く
経営者と管理職の会話は、どうしても売上や人数の話になりがちですよね。 最初の5分だけでも「最近どう?」から始めてみてください。
管理職がひとりで抱えた疲れは、外からは見えにくいものです。
管理職がどんなふうに疲れていくのかは、管理薬剤師に疲れたあなたへで、管理職の側から書いています。
3. 管理職が部下を大事にできる「道具」を渡す
管理職が部下を大事にしたくても、時間も権限もなければ動けません。 1社目は、誰も有給を取れない職場でした。 私が先に取ることで、スタッフも少しずつ休めるようになりましたが、上からは評価を心配する声もありました。
経営者の側から先に「休みを回すのは店長に任せる」と伝えておけば、管理職はもっと動きやすくなるはずです。 あなたの会社の管理職は、部下を大事にするための道具を持っていますか?
任せたいけれど、勝手に決められるのは少し不安です。


最初は小さく任せて、結果を一緒に振り返るので十分です。任された経験が、管理職の自信になります。
経営者のための確認リスト
- 管理職の名前と、最近助かった行動を1つずつ言えるか
- 管理職と、数字以外の話をしたのはいつか
- 管理職に、部下のために使える時間と裁量があるか
内の三方よしから、外の三方よしへ
感謝で回る組織は、社内だけで終わりません。 内の三方よしが整うと、外の三方よしにつながる。

近江商人の心得として知られる「売り手よし・買い手よし・世間よし」と同じ考え方です。 スタッフが辞めない職場では、お客さまも同じ人に安心して相談できます。 転職後の店では、患者さんが通院日以外にも、お菓子を持って顔を出してくれるようになりました。
社内だけ、会社だけが得をする形は長続きしにくい、と私は感じています。
優れた管理職が何をしているのかを、調査から知りたい方にはまず、ルールを破れが入り口になります。 Gallup の調査をもとに、すぐれたマネジャーの共通点をまとめた本です。
人を大事にする仕組みを会社全体で作る例を見たい方には、ワーク・ルールズ!もあります。 Google の人事の責任者が、採用や評価の取り組みを紹介した本です。 ※本の名前のリンクとボタンは Amazon の広告リンクです。
よくある質問
管理職を通さず、経営者が直接社員を褒めてもいいですか?
もちろん、いいことです。 ただ、管理職を飛ばしてばかりだと、管理職の立場が弱く見えることがあります。 「店長から聞いたよ、助かったって」と、管理職の名前を添えて伝えるのがおすすめです。
管理職の給料を上げる余裕がありません
待遇は大事ですが、お金だけが支えではありません。 具体的な感謝・話を聞く時間・任せる権限は、今日から渡せます。 昇給を考える時は、管理職が出した成果を一緒に数字で確かめると、お互いに納得しやすくなります。
管理職本人が辞めたいと言い出したら?
まずは引き止めより先に、理由を最後まで聞いてください。 退職は本人の権利です。その上で、変えられることがあるなら伝えます。
心の疲れが続いている様子なら、厚生労働省の「こころの耳」で「こころの耳 相談窓口」と検索すると、相談先が探せます。
部下に辞められた側の気持ちの整理は、部下が辞めるのは自分のせい?も参考になります。
まとめ|明日の朝、管理職にかけるひと言
社員が辞めない会社の経営者は、社員1人ひとりではなく、まず管理職を支えています。
- チームの熱意の差は、管理職と強く結びついている(米国の調査)
- 辞めた人の半数近くは、辞める前の3か月に、上司にも経営陣にも様子を聞かれていなかった
- 上司に大事にされていると感じる社員は、会社にも大事にされていると感じやすい
明日の朝、管理職に1つだけ伝えてみてください。 「この前のあの対応、本当に助かった。ありがとう」。
その一言を受け取った管理職は、今度は部下に同じ言葉を渡していきます。 経営者の「ありがとう」が、現場の朝を少しずつ変えていくはずです。
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