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「この件、私の判断で進めてもいいですか?」 管理職にそう聞かれて、「いや、一応こっちで見ておくよ」と答えたことはありませんか?
任せたい気持ちはある。でも、失敗した時の顔が浮かぶ。 気づけば、最後の判断はいつも自分のところに戻ってきている。
この記事では、管理職に任せられない経営者が、何から手放せばいいのかが分かります。 研究で分かっていることと、1年目から店を任された私の経験を、分けてお話しします。
任せたいんです。でも、任せて失敗したら、結局こっちが謝りに行くことになるので。

私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
つまり、経営者から「任される側」に、ずっといた人間です。 今日は、その経験を経営者の側から読み直してみます。
管理職に任せられない社長へ|結論は「範囲を決めて任せ、見ていたことを伝える」
先に結論です。 任せる範囲を先に決めて、その中は管理職に決めてもらう。
全部を一度に手放す必要はありません。 「ここまでは任せる」「ここからは相談してほしい」を言葉にするだけで、管理職は動きやすくなります。

そして、任せた後に「見ていたよ」と伝える。 任せることと感謝を伝えることは、セットで効きやすいと私は感じています。

任されるのはうれしい。でも、見てもらえていないと、だんだん不安になるんです。
ただし、このあと紹介する研究は「関係がある」までしか言えません。 「任せれば必ず成果が上がる」という約束ではない点は、先にお伝えしておきます。
権限委譲で、管理職と職場はどう変わる?|研究で分かっていること
任せること(権限委譲)は、任された人の気持ちと結びついていることが分かっています。 3つの研究と調査から見ていきます。
「自分で決められる」実感がある人ほど、辞めたい気持ちが低い
「自分の仕事には意味がある。自分で決められる。周りに影響を与えられる」。 この実感を、研究では心理的エンパワーメントと呼びます。
これまでの多くの研究をまとめて計算し直した研究(メタ分析)があります。 この実感が強い人ほど、仕事への満足や会社への愛着、成果が高い傾向がありました。
逆に、ストレスと「辞めたい」気持ちは低い傾向でした。 チームで見ても、任されているチームほど成果が高い関係がありました。
出典:Seibert, S. E., Wang, G., & Courtright, S. H.(2011)「Antecedents and Consequences of Psychological and Team Empowerment in Organizations: A Meta-Analytic Review」Journal of Applied Psychology
任せる上司は、信頼と自発性につながりやすい
権限を渡し、部下が自分で決められるように支える上司のあり方もあります。 研究では「エンパワリング・リーダーシップ」と呼ばれています。
105の調査データをまとめた研究では、このやり方が成果や創造性の高さとつながっていました。 頼まれていない所まで手を貸す行動とも、結びついていました。
面白いのは、その間に「上司への信頼」と「任されている実感」があった点です。 任せることは、信頼や任されている実感を通して、成果とつながっている形でした。
出典:Lee, A., Willis, S., & Tian, A. W.(2018)「Empowering leadership: A meta-analytic examination of incremental contribution, mediation, and moderation」Journal of Organizational Behavior
研究で分かっていること
- 「自分で決められる」実感が強い人ほど、満足が高く、辞めたい気持ちが低い傾向
- 任せる上司のもとでは、信頼と自発的な行動が高い傾向
- どちらも「関係がある」までで、任せれば必ず良くなるとは言えない
管理職のやる気は、世界で下がっている
もう1つ、経営者に知っておいてほしい数字があります。 仕事に熱意をもって取り組む管理職の割合が、ここ数年で下がっているんです。

2022年の31%から、2025年は22%まで下がりました。 グラフは2023年を省いているので、2022年から2024年の間は2年分です。 ただ、取り組みが進んだ会社では、管理職の79%が熱意をもって働いていました。
出典:Gallup「State of the Global Workplace: 2026 Report」(2026年・2026年11月6日閲覧)
この調査は割合の変化を見たもので、下がった原因までは分かりません。 ただ、チームのやる気の差の少なくとも70%は管理職で説明できる、という Gallup 社内の分析もあります。 2015年の古い数字で、ほかの研究者の審査は受けていません。
出典:Gallup「Managers Account for 70% of Variance in Employee Engagement」(2015年・2026年11月6日閲覧)
あなたの会社の管理職は、今どんな顔で働いていますか?
日本の管理職は「決める権限」が上に集まりやすい
日本では、管理職といっても決める権限が少ないことが多いようです。 労働政策研究・研修機構の調査では、半数以上の事業所で決定権があるのは、基本的に部長クラス以上でした。
課長クラスは「決める流れに関わる」ところまで、という結果です。 管理職の1か月の労働時間は、平均177.4時間でした。
出典:労働政策研究・研修機構「管理職の働き方に関する調査」(2021年・2026年11月6日閲覧)。全国の事業所3,183件と管理職4,278人の回答をもとにした調査です(決定権の結果は事業所の回答です)。
権限が上に集まることと、やる気の関係までは調べていません。
でも、想像してみてください。 責任と仕事は多いのに、決めることはできない。これはなかなか苦しい立場です。
うちの店長も、何でも私に聞いてきます。自分で決めてくれればいいのに。


もしかすると、「決めていい」と言われていないだけかもしれません。
面接で「管理薬剤師を経験したい」と言った新人に、社長は店を任せた|私の経験
ここからは、研究ではなく私が経験したことです。 任された側から見た話を、経営者の目線で読み直してみます。
面接で年収の話をしなかった理由
最初の会社の面接で、社長に「何か希望の条件はあるかな?」と聞かれました。 私は一言だけ答えました。「管理薬剤師を経験したいです」。
社長は目を丸くして、やがて面白そうに笑いました。 同席していた役員も「いいですね」と言ってくれました。

正直に言うと、私には1000万円の奨学金がありました。 お金は欲しかったです。
でも、お金が欲しいことは、経営者なら言われなくても分かっています。それより先に、会社にとっての得を差し出す方が伝わる、と考えました。
そして配属されたのは、約20店舗あるグループの中で一番売上の高い店でした。 1年目の新人に、です。
任された店は、歓迎ムードではなかった
その店は大きな病院の前にあり、処方せんは月に約2400枚。 本部から遠く、会社の目が届きにくい店でした。
マニュアルはなく、仕事は「見て覚える」の世界です。 質問すると「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」と返ってきました。
最初に「店の収入を増やす取り組みを、みんなでやりましょう」と呼びかけた時も、うまくいきませんでした。 「これ以上仕事を増やさないでください」と言われて、出鼻をくじかれました。
それ、社長が任せたのは失敗だったんじゃないですか?


最初だけ見れば、そう見えたと思います。でも、私はその店の管理薬剤師を続けました。ここから、店の空気が少しずつ変わっていきました。
社長が得たもの
私がしたのは、誰もやりたがらない面倒を拾うことでした。 患者さんからの強いクレームには一番に出ていき、スタッフを守る盾になりました。
経験の長い事務スタッフの力を素直に頼り、最後の責任は自分が取る。 これを行動で見せ続けると、少しずつ店の空気がやわらいでいきました。

知識で上に立つより、相手の負担を1つ減らす方が、信頼は早く貯まりました。
関係ができてから、もう一度同じ取り組みをお願いしました。 今度は受け入れてもらえて、後発医薬品(ジェネリック)を増やす取り組みで、店の利益が月に約50万円上がりました。
クレームはほとんど無くなり、役員からは「薬局の雰囲気が明るくなった」と言われました。 そして、本部にいる社長の耳にも、現場から私の良い評判が届くようになりました。
社長が得たものを、経営者の側から並べるとこうなります。
| 社長が得たもの | 中身 |
|---|---|
| 店が回る | 一番売上の高い店の雰囲気が落ち着いた |
| 数字 | ジェネリックの取り組みで月に約50万円の利益アップ |
| 現場の声 | 現場から本部へ、良い評判が届くようになった |
| 育った管理職 | 任された私は、5年目までこの会社で店を任され続けた |
2年目、私の年収は520万円から542万円に上がりました。 地方の中小薬局の昇給としては高い方で、行動が少しずつ評価され始めた結果だったと、今は受け止めています。
任せっぱなしの怖さも、私は知っている
ただ、きれいな話だけではありません。 最初の会社では、失敗もあり、5年間で10人以上が辞めました。
3年目の冬、店の緩衝材だった事務スタッフが辞めたことをきっかけに、退職が続きました。 5人いた薬剤師は、最後は私1人になりました。
私は文句も言わず、1人で回し続けました。 本部から見れば、「任せた店が回っている」ように見えていたはずです。
文句を言わない管理職って、経営者から見ると一番安心なんですけどね。

でも実際は、限界でした。 そんな時、当時の役員が私を呼び、店を支えていることは分かっていると言って、待遇を見直す話をしてくれました。
私はいつも冷静にしていたのに、その時だけは泣きながら、毎日つらいと打ち明けました。
役員は「この前も高熱だったのに出勤してくれたでしょう。いつも、ありがとう」と返してくれました。 本当は、熱がある日に出勤しなくて済む体制を作るのが先でした。それでも、見てくれている人がいると分かったことが、私を支えました。
任されることは誇らしい。でも、見てもらえていないと、人は静かにすり減っていきます。

それでも、最後の2年は辞める人がいませんでした。 感謝の伝え方は、経営者から管理職への感謝の伝え方で詳しく書いています。
管理職に任せられない理由と、見方を変えるヒント
任せられない理由は、社長の性格の問題ではないことが多いです。 大事な会社だからこそ、手放すのがこわい。それは自然な気持ちですよね。
よくある理由と、見方の変え方を表にまとめました。
| 任せられない理由 | 見方を変えるヒント |
|---|---|
| 失敗したら会社が困る | 失敗してもいい金額や範囲を、先に決めておく |
| 自分がやった方が早い | 今は早くても、1年後も自分がやり続けることになる |
| 管理職の判断が不安 | 判断の前に「どうしたい?」と聞き、考え方を知る |
| 任せたら口を出したくなる | 口を出す場面を、先に2つだけ決めておく |
| 何を任せたか曖昧 | 任せる範囲を紙に書いて渡す |
私の最初の会社の社長は、本部から遠い一番売上の高い店に、1年目の私を置きました。 思い切った判断だったと思います。
本部の社長は、きっと「あの新人は本当にやれているのか」と不安だったと思います。 それでも、店を任せ続けてもらえました。
任された店で、私は分からないことを毎日メモし、家に帰ってから勉強しました。任せ続けてもらえた時間が、私が育つための時間になりました。
でも、待つのって、本当に勇気がいりますよね。


待つのは勇気がいります。だから、何も決めずに待つのではなく、範囲を決めてから待つ。次の5つの手順は、そのためのものです。
管理職に任せる5つの手順|経営者が今日からできること
ここからは、研究と私の経験から、経営者が今日からできることを5つにまとめます。 全部でなくて大丈夫です。1つ選んで始めてみてください。
1. 任せる範囲を、3つに分けて紙に書く
最初にすることは、任せる範囲を言葉にすることです。 次の3つに分けると、管理職が迷わなくなります。
- 管理職が決めてよいこと(例:シフトの組み方・朝礼の形)
- 決める前に相談してほしいこと(例:人を採る・大きな買い物)
- 決めた後に報告だけでいいこと(例:小さなクレームの対応)

2. 相談には「どうしたい?」から返す
管理職に相談された時、すぐに答えを言いたくなりますよね。 でも、まず「あなたはどうしたい?」と聞いてみてください。
答えが同じなら、「それでいこう」と言うだけです。 管理職は「自分で決めた」と感じられます。
3. 目指すことと条件を、先に決めておく
「この金額までなら、失敗しても構わない」。 この線が無いと、管理職は何でも社長に聞くしかありません。
私は転職後の会社で、店の収入になる加算(調剤報酬の上乗せ)を取るために、土曜も店を開ける必要がありました。 その時、先に社長と約束しました。「私が中心になってスタッフを育て、確実に加算を取ります。その代わり、土曜の出勤は別に残業代を払ってください」。
目指すことと条件が先に決まっていたので、途中で迷わずに進められました。 経営者の側からも、「ここまでは任せる」「この金額までなら失敗しても構わない」を先に伝えておくと、管理職は何でも聞きに来なくなります。
4. 「見ていたよ」を、事実で伝える
任せた後に一番効くのは、感謝の言葉だと私は思っています。 研究でも、上の人の「ありがとう」が行動を変えた実験があります。
米国の大学で、卒業生に寄付をお願いする電話の係41人を2組に分けた実験です。 責任者が直接感謝を伝えた組は、翌週の電話の本数が増えました。
伝えなかった組は増えませんでした。 増え方を調べると、「自信がついた」ことではなく、「自分は大切にされている」という気持ちとつながっていました。
出典:Grant, A. M., & Gino, F.(2010)「A little thanks goes a long way: Explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior」Journal of Personality and Social Psychology(実験3)
少人数で1週間だけの実験なので、長く続くかまでは分かっていません。 それでも、「ありがとう」に手間はほとんどかかりません。
米国の働く人約3,500人を2年間追った調査もあります。 よく認められていた人は、2年後に辞めている割合が45%低い結果でした。
出典:Gallup「Employee Retention Depends on Getting Recognition Right」(2024年・2026年11月6日閲覧)
この調査は、社員をたたえる仕組みを売る会社(Workhuman)と一緒に行われたものです。 数字は「関係がある」までとして読んでください。

「助かってるよ」より、「先週のクレーム、前に出てくれてありがとう」の方が届きます。
5. 外への説明は、社長が引き受ける
任せた結果、うまくいかないこともあります。 その時に、社長が「任せたのは自分だ」と前に立つ。
これがあると、管理職は次も挑戦できます。 逆に、失敗のたびに管理職だけが責められると、次からは何も決めなくなりがちです。
今日からできること
- 任せる範囲を3つに分けて紙に書く
- 次の相談に「どうしたい?」と返す
- 今週、管理職の行動を1つ名指しで「ありがとう」と伝える
マネジャーの仕事をもっと深く知りたい方には、HIGH OUTPUT MANAGEMENTがあります(Amazonの広告リンク)。 マネジャーの成果は、自分のチームと、影響を与える周りの成果で決まる。そう考える古典です。
内の三方よしから、外の三方よしへ
任せて、支えて、感謝を伝える。 これは社長・管理職・スタッフの「内の三方よし」を整える話です。
流れにすると、こうなります。
- 管理職が自分で決められると、スタッフの困りごとに早く手が届く
- スタッフに余裕ができると、お客さまへの対応がやわらかくなる
- お客さまが安心すると、会社の信用と数字が育つ
最初の会社で、私はクレームの盾になりました。 管理薬剤師として店を任されていたので、迷わず前に出ようと思えました。
こうして、会社・世の中・お客さまの「外の三方よし」につながっていきます。 任せることは、社長の時間を空けるだけの話ではないんですね。
管理職を支える全体の考え方は、社員が辞めない会社の経営者がしていることにまとめています。
よくある質問
任せた管理職が失敗したら、どうすればいいですか?
まず、社長が外に向けて責任を引き受けてください。 そのうえで、管理職と次の手を一緒に考えます。
責める場ではなく、振り返る場にするのがコツです。
経験の浅い若手に任せても大丈夫ですか?
1年目で店を任された私の例はありますが、研究で「新人に任せると伸びる」と確かめられたわけではありません。 任せる範囲を小さく始めて、相談しやすい関係を先に作るのが安心です。
任せたら、口を出してはいけないのですか?
口を出してはいけない、ではありません。 口を出す場面を先に決めて伝えておくと、管理職も社長も楽になります。
まとめ|明日の朝、管理職に渡すひと言
管理職に任せられないのは、会社を大事に思っているからです。 だからこそ、全部を手放すのではなく、範囲を決めて少しずつ任せていく。
私は1年目で、一番売上の高い店を任されました。 最初は反対されることもありましたが、任せ続けてもらえた場所で面倒を拾い続けるうちに、店も私も育ちました。
明日の朝、管理職にこう伝えてみませんか? 「この件は、あなたが決めていいよ。決めたら教えてね」。
その一言から、管理職が自分で決める場面が、少しずつ増えていくかもしれません。 そして数か月後、あなたの机に戻ってくる相談の中身が、少し変わっているかもしれません。
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