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「じゃあ、引き続きよろしく」。 管理職との面談を、この一言で終えてしまったことはありませんか?
本当は「いつも助かっている」と言いたかった。でも、照れくさい。 気づけば、話は売上と人手の数字だけで終わっていた。
この記事では、経営者が管理職に感謝を伝える時に、何を言えば届くのかが分かります。 研究や調査で分かっていることと、私が管理職として経営者側の人から感謝された経験を、分けてお話しします。
感謝はしているんです。でも、改まって言うと、わざとらしい気がして。

私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
つまり、経営者から「ありがとう」を言われる側に、ずっといた人間です。
管理職への感謝の伝え方|結論は「見ていた事実」と「形」をそろえる
先に結論です。 「何を見ていたか」を言葉にして、できる形で応える。
「いつもありがとう」だけでも、言わないよりずっといいです。 でも、管理職の心に残るのは、その前に「何を見ていたか」が付いた時です。

もう1つ大事なのは、言葉だけで終わらせないことです。 働く条件や公平さがそろわないと、感謝の言葉は軽く聞こえてしまうことがあります。

感謝は「言う」と「応える」の両方がそろって、やっと届くと私は感じています。
ただし、このあと紹介する研究は「関係がある」「増えた」までしか言えません。 「感謝すれば必ず辞めなくなる」という約束ではない点は、先にお伝えしておきます。
退職は働く人の権利です。この記事は、引き止めの話ではありません。 「ここで働き続けたい」と思える職場を作る話です。
経営者の感謝が、管理職に届きやすい理由|研究で分かっていること
経営者の「ありがとう」は、思っているより重く受け取られている可能性があります。 3つの研究と調査から見ていきます。
一番心に残る承認、約4人に1人は「経営トップ」から
アメリカの Gallup という調査会社が、働く人に「一番心に残った承認は誰からだったか」を聞いています。
いちばん多かったのは直属の上司で28%、次が役員・社長などの経営トップで24%でした。 上司の上司が12%、お客さまが10%、同僚が9%です。
出典:Gallup「Employee Recognition: Low Cost, High Impact」(2016年6月28日公開・2024年1月12日更新・2026年10月25日閲覧)

つまり、経営トップの言葉が一番心に残ったと答えた人が、約4人に1人いたということです。 毎日顔を合わせない人の一言でも、これだけ残るんですよね。
ただし、これはアメリカの調査で、本人が思い出して答えたものです。 日本でも同じ割合になるとは限りません。
お礼を言われた人は、次も手を貸しやすくなる
ありがとうと言われた人は、「自分は大事にされている」と感じます。 その気持ちが、次の協力につながることを示した実験があります。
アメリカの公立大学で、寄付を電話でお願いする担当者を2つのグループに分けました。 片方には責任者が直接来て、短いお礼を伝えました。もう片方には何も言いませんでした。
すると、お礼を言われたグループは、翌週の電話の本数が約50%増えました。 言われなかったグループは、前の週とほぼ同じでした。
出典:Grant, A. M., & Gino, F.(2010)「A little thanks goes a long way: Explaining why gratitude expressions motivate prosocial behavior」Journal of Personality and Social Psychology
この論文には4つの実験があり、ここで紹介したのは大学の電話の担当者の実験だけです。1つの大学の小さな集団を、1週間だけ見た実験です。長く続くかどうかや、ほかの職場でも同じになるかは分かっていません。
管理職が大事にされると、部下への接し方にも流れていく
アメリカの小売業で、社員とその上司の両方に質問紙で聞いた研究があります。 「会社に大切にされている」と感じている上司ほど、部下から「支えてくれる上司だ」と思われていました。
その部下も「会社に大切にされている」と感じている度合いが高く、本来の仕事でも、仕事以外の協力でも成果が高い、という関係が見られました。
出典:Shanock, L. R., & Eisenberger, R.(2006)「When supervisors feel supported: Relationships with subordinates' perceived supervisor support, perceived organizational support, and performance」Journal of Applied Psychology
ただし、これは1つの時点で集めた関係の調査です。 「上司が大事にされたから部下に優しくなった」とまでは言い切れません。
経営者が管理職に言った「ありがとう」が、現場まで届くかもしれないってことですか?


そう考えています。経営者がスタッフ全員に毎日声をかけるのは難しいですよね。でも、管理職なら数人です。
管理職を支えることの全体像は、社員が辞めない会社の経営者がしていることにまとめています。
管理職は今、疲れている|感謝が届きにくい時代の数字
感謝を伝える前に、今の管理職の状態を知っておきたいところです。 世界でも日本でも、管理職の余裕は小さくなっている様子が見えます。
Gallup の世界の調査では、仕事に熱意を持っている管理職の割合が、2024年の27%から2025年の22%へ下がりました。 5ポイントの下げで、管理職としては過去最大の下げ幅だったそうです。
出典:Gallup「State of the Global Workplace 2026」(2026年公表・2026年10月25日閲覧)

日本の数字もあります。管理職4,278人が答えた調査で、管理職の1か月の労働時間は平均177.4時間でした。
出典:労働政策研究・研修機構「管理職の働き方に関する調査」(調査シリーズ No.212・2021年・2026年10月25日閲覧)
同じ機構が管理職50人に聞き取りをした調査では、こんな様子も書かれています。 自分も現場の仕事をしながら管理の仕事も抱え、忙しくなり、労働時間も長い傾向があった、というものです。
出典:労働政策研究・研修機構「管理職ヒアリング調査結果―管理職の働き方と職場マネジメント―」(資料シリーズ No.254・2022年・2026年10月25日閲覧)
あなたの会社の管理職は、最近どんな顔で働いていますか? 疲れている人ほど、「つらい」とは自分から言いにくいものです。
管理職の側から見た疲れの正体は、管理薬剤師に疲れたあなたへに書きました。経営者の方にも、現場の目線を知る材料になると思います。
私が泣いた「いつも、ありがとう」|恩人の役員の一言
ここからは、研究ではなく私の経験の話です。 私は管理職として、経営者側の人の一言に支えられたことがあります。
1人で現場を回していたころ
最初の職場の3年目の冬のことです。 現場の緩衝材だったスタッフが辞めたことをきっかけに、退職が続きました。
ピーク時に5人いた薬剤師は、最後は私1人になりました。
昼休みはなし。40℃の熱が出ても、いつも通り出勤していました。 帯状疱疹もできました。
それでも私は、本部に「キツい」とは一言も言いませんでした。 その前に、他社から誘われた話で昇給してもらい、信用を落とした失敗があったからです。
役員がかけてくれた言葉
それから少したった4年目のある日、ずっと気にかけてくれていた60代の役員に呼ばれました。 私があの店をどれだけ支えているか分かっている。だから年収を800万円にする。
あと1年半は辞めないでほしい。そういう話でした。
いつもは冷静に話す私が、このときだけは泣きました。 「実は毎日つらくて、職場への足が重いです」。初めて本音を口にしました。

役員は、こう返してくれました。 「辛いのは痛いほど分かる。この前も高熱だったのに出勤してくれたでしょう。いつも、ありがとう」
後で知ったのですが、役員にはその場で年収を決める権限はありませんでした。 本部にかけ合って、昇給を取ってきてくれていたのです。
あの一言に入っていた3つのこと
今振り返ると、あの一言には3つのことが入っていました。
- 見ていた事実:「この前も高熱だったのに出勤してくれた」
- つらさを受け止める:「辛いのは痛いほど分かる」
- 形で応える:本部にかけ合って、昇給を取ってきてくれた

あの人が本部にかけ合ってまで昇給を取ってきてくれたと知って、その思いに応えたいと思いました。
それからは、目の前の患者さんとスタッフのために動きました。 少しずつ薬剤師も増え、4人体制になりました。
最初の職場では、私の失敗もあって10人以上が辞めています。 それでも、最後の2年は辞める人がいませんでした。
もちろん、あの一言だけのおかげだとは言えません。 でも、私が踏ん張れた理由の1つだったのは確かです。
信用を落とした昇給との違い
実は、この前にも一度、昇給してもらったことがあります。 他社から誘われている話を社内で漏らし、社長が給料を上げてくれた時です。
お金は増えました。でも、社長の少し冷めた目を見て、信用を落としたと分かりました。 同じ昇給でも、「脅して取った昇給」と「感謝と一緒に届いた昇給」は、受け取る側の気持ちがまるで違いました。
感謝と一緒に届いた昇給は、「応えたい」という気持ちを生む。
ありがとうだけで終わらせない|感謝と待遇・公平さはセット
感謝の言葉は大事です。でも、言葉だけで足りるとは限りません。 「会社は自分を大事にしてくれている」という実感は、言葉以外のものからも生まれるからです。
70本を超える研究をまとめて分析した論文があります。 「会社は自分の貢献を認め、大事にしてくれている」という実感に結びついていたのは、次の3つでした。
- 公平な扱い
- 上司の支え
- 報酬と働く条件
この実感が高い人ほど、会社への愛着や成果が高く、辞める・休むといった行動が少ない、という結果でした。
出典:Rhoades, L., & Eisenberger, R.(2002)「Perceived organizational support: A review of the literature」Journal of Applied Psychology

ここで言えるのは「関係がある」までです。 それでも、言葉と待遇がちぐはぐだと、感謝が本心に聞こえにくくなる。私の経験とも重なります。
でも、うちは小さい会社で、給料をすぐ上げる余裕はないんです。


給料だけが「形」ではないと思います。人を1人増やす、休みを取りやすくする、話を聞く時間を作る。どれも立派な応え方です。
逆に、気をつけたいことがあります。 「ありがとう」を、お願いや無理な要求の前置きにしないことです。
「いつも助かってるよ。で、来月からもう1店舗見てくれる?」。 こう続くと、感謝の言葉が「頼みごとの合図」に聞こえてしまいます。
感謝が軽く聞こえる3つの形
- ありがとうの直後に、無理なお願いを続ける
- 言葉では感謝しているのに、待遇や扱いが不公平なまま
- 数字の話だけをして、最後に一言だけ付け足す
経営者から管理職への感謝の伝え方5つ|今日から使える言葉
ここからは、具体的な伝え方です。 どれも、明日の面談や電話ですぐに使えます。
| 伝え方 | 言葉の例 | 管理職に伝わること |
|---|---|---|
| 1. 見ていた事実を言う | 「先週のクレーム、最後まで引き受けてくれて助かった」 | ちゃんと見てくれている |
| 2. つらさを先に受け止める | 「人が足りない中で回してくれて、大変だったよね」 | 分かってくれている |
| 3. 管理職のチームにも感謝する | 「あなたのチームの電話の対応、お客さまに褒められていたよ」 | 自分の部下まで見てくれている |
| 4. 数字の前に、話を聞く | 「売上の話の前に、最近どう?困っていることはある?」 | 数字の道具ではない |
| 5. できる形で応える | 「休みを取れるように、来月から応援を1人回す」 | 言葉だけではない |
1. 見ていた事実を言う
「いつもありがとう」の前に、1つだけ事実を足してみてください。 「この前のあの対応」と言えるだけで、言葉の重さが変わります。
あの日の役員の言葉にも、「高熱だったのに出勤してくれた」という事実が入っていました。
ただし、熱がある日の出勤は、ほめてまねしてもらうことではありません。体調が悪い日に休める体制を作ることも、経営者の「形で応える」の1つです。
事実を挙げるには、ふだんから管理職の動きを少しだけ気にかけておく必要があります。
2. つらさを先に受け止める
疲れている管理職ほど、自分からは弱音を吐きません。 だから、経営者のほうから「大変だったよね」と先に言うと、本音が出やすくなります。
私が泣いて本音を話せたのも、役員が先に「あの店をどれだけ支えているか分かっている」と言ってくれた後でした。
3. 管理職のチームにも感謝する
管理職は、自分が褒められるより、部下が褒められた時のほうがうれしいことがあります。 「あなたのチームのおかげで」と言われると、チームを守ってきた努力が報われるからです。
管理職が部下にどう感謝を伝えるかは、部下のほめ方の記事で型にしています。
4. 数字の前に、話を聞く
面談の最初の5分を、数字ではなく「最近どう?」にあててみてください。 数字の話から入ると、管理職は「できていないこと」の説明で頭がいっぱいになりがちです。
5. できる形で応える
お金でなくてもかまいません。人を回す、仕事を1つ減らす、休みを取りやすくする。 小さくても、言葉と動きがそろうと、感謝は本物として届きやすくなります。

感謝で回す組織は、内の三方よしから外の三方よしへ
私は、経営者・管理職・スタッフの3者がそれぞれ報われる形を「内の三方よし」と呼んでいます。 そして、内の三方よしが整うと、会社・世の中・お客さまの「外の三方よし」につながると考えています。
経営者が管理職に感謝を伝える。管理職がスタッフに感謝を伝える。 スタッフに余裕が生まれると、お客さまへの対応もやわらかくなりやすい。
厳しく管理して数字で詰めても、人が動くのは短い間だけになりがちです。 感謝で回る職場は、時間はかかっても、長く続きやすいと私は考えています。

感謝で回す組織は、経営者にとっても得です。管理職が「応えたい」と思って動いてくれるからです。
今回の実験の著者の1人、アダム・グラントにはGIVE & TAKEという本があります。 人に与える人が、職場でどう報われ、どう損をしやすいのかを、たくさんの研究から整理した本です。
よくある質問
管理職に「ありがとう」を言うと、甘やかしになりませんか?
なりにくいと考えます。見ていた事実を挙げる感謝は、甘やかしではなく「よかった行動を伝えること」だからです。 直してほしい点がある時は、感謝とは別の時間に、落ち着いて伝えるほうが届きやすいです。
経営者が管理職を飛ばして、スタッフに直接感謝してもいいですか?
いいと思います。ただ、先に管理職に「あなたのチームのおかげで」と伝えておくと安心です。 管理職の頭越しになると、管理職が「自分は要らないのか」と感じることがあるからです。
感謝を伝えても、管理職が辞めたいと言ってきたら?
まずは理由を最後まで聞くことからだと思います。退職は働く人の権利です。
引き止めの考え方は、退職の引き止めはしていい?にまとめています。
まとめ|明日の朝、管理職に「見ていたこと」を1つ伝える
経営者から管理職への感謝の伝え方を、もう一度まとめます。
今日のまとめ
- 「いつもありがとう」の前に、見ていた事実を1つ足す
- つらさを先に受け止め、本音を話せる時間を作る
- 言葉だけで終わらせず、できる形で応える
明日の朝、管理職に「この前のあの対応、助かったよ。いつも、ありがとう」と伝えてみてください。 その一言で、管理職の顔が少しゆるむかもしれません。それが、感謝で回る会社の最初の1歩です。
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