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「この前も言ったよね?」 口に出した瞬間、部下の顔からすっと表情が消える。
次の日から、その部下は小さなミスを報告しに来なくなる。 こんな場面、ありませんか?
同じミスを何度も繰り返されると、つい強く言ってしまうんです。でも言ったあと、関係がぎくしゃくして……。

この記事では、強く叱ると同じミスが見えなくなることがある理由と、関係を壊さずに伝える4つの手順が分かります。 そのまま使える言い換えの例も、表にまとめました。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
最初の職場では、私の失敗もあって10人以上が辞めています。 最後の2年は、辞める人がいませんでした。
部下の叱り方の結論|「人」ではなく「行動」に向けて伝える
先に結論です。叱る相手は「人」ではなく、直してほしい「行動」です。
「何回言えば分かるの」「あなたはいつも雑だよね」。 こうした言葉は、相手そのものへの点数になります。
言われた側に残るのは「自分はダメだと思われている」という気持ちです。 何を、どう直せばいいかは残りません。
伝わりやすいのは、次の3つをそろえた言い方です。
- いつ・どこで(場面)
- 何をしたか(見たままの行動)
- それで何が起きたか(影響)

叱るのが苦手な人ほど、うまい言葉を探しがちです。でも、見たことをそのまま言うほうが、相手は受け取りやすいんです。
強く叱ると、同じミスが「見えなく」なることがある理由
同じミスが続く時、上司はつい言葉を強くします。 でも研究を見ると、強い言葉は逆に働くことがあります。
関係のよい病棟ほど、記録に残るミスが多かった
アメリカの大学病院で、8つの病棟の看護チームを比べた研究があります。 看護師長の指導や関わりが強い病棟、人間関係がよい病棟ほど、記録に残る投薬ミスが多いという結果でした。
一見、逆に思えますよね。 著者は「ミスが多い」のではなく「隠さずに報告されている」からだと考えました。
出典:Edmondson, A. C.(1996)「Learning from Mistakes Is Easier Said Than Done: Group and Organizational Influences on the Detection and Correction of Human Error」The Journal of Applied Behavioral Science
8つの病棟という小さな比べ方で、「叱らなければミスが減る」と言える研究ではありません。 それでも、責められる職場ではミスが表に出にくくなるかもしれない、というヒントになります。
失礼な一言だけで、医療チームの処置の質が下がった実験
もう1つは、イスラエルの新生児集中治療室(NICU)の医療者で行った実験です。 医師1人と看護師2人で1チーム、24チームが参加しました。
早産の赤ちゃんの容体が急に悪くなる場面を、模擬で処置してもらいます。 半分のチームには、見学に来た外部の専門家が、医療の質を見下すような一言をかけました。 どちらの組に入るかは、くじ引きのように決めています。

失礼な言葉を聞いたチームは、診断の点数も処置の点数も下がりました。 出来の差のうち約12%は、その一言だけで説明できたという結果でした。
出典:Riskin, A., Erez, A., Foulk, T. A., ほか(2015)「The Impact of Rudeness on Medical Team Performance: A Randomized Trial」Pediatrics
下がった理由は、情報を共有しなくなり、助けを求めなくなったことでした。
言ったのは上司ではなく外部の人で、模擬の場面です。 それでも、きつい言葉は、人を黙らせてしまう。この流れは、現場の感覚とよく合います。
「またか」と思って強く言うほど、部下が相談しなくなる……。思い当たります。


私もその空気の中で働いたことがあります。次の節で、私が1年目にいた職場の話をしますね。
新人いびりの職場で、私が感じたこと
私が1年目に配属されたのは、マニュアルのない職場でした。 仕事は「見て覚えろ」。分からないことを聞くと、冷たい言葉が返ってきます。
「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」 「これぐらい知っててもらわないと困ります」
元気に挨拶をしたら「挨拶がうるさいです」と言われた朝もありました。 正直、毎日心が折れそうでした。今振り返っても、普通なら一週間で病んで辞めるレベルの環境だったと思います。
責められる職場では、質問が止まる
そこで私は「できない自分が悪いのだから、自分が変わるしかない」と決めました。 現場で分からなかったことをメモして、家に帰ってから毎日復習したんです。
私はなんとか踏みとどまれました。 でも、誰もが同じようにできるわけではありません。今ふり返ると、こう思います。
責められる職場では、人は質問も報告もしにくくなる。 そして聞けないまま、同じミスが起きやすくなるのだと思います。
声のかけ方は、職場の空気や離職とも関わっている
辞めた人の半分ほどは、上司や会社が何かしていれば防げたと答えている。 そんな調査があります。
自分から辞めた人の52%が「上司や会社が何かしていれば辞めなかった」と答えていました。 51%は、辞める前の3か月、上司からも他のリーダーからも、仕事の満足や将来について話しかけられていなかったそうです。
出典:Gallup「This Fixable Problem Costs U.S. Businesses $1 Trillion」(2019年)(2026年10月26日閲覧)
辞めた本人が振り返って答えたもので、叱り方が原因だと示した調査ではありません。 ただ、毎日の声のかけ方は、辞めるかどうかの分かれ道に関わっていそうです。
ちなみに、責める空気の中にも、相手なりの理由はあります。 私も後で話を聞いて、厳しかった人の見え方が変わった経験があります。
受け入れられなくても、理解できたら許せる。そう思えたのは、その時でした。
叱られた部下がどんな気持ちで黙るのかは、医療の心理的安全性の作り方でも詳しく書いています。
同じミスを繰り返す部下に、関係を壊さず伝える4つの手順
ここからが本題です。 次の4つを、上から順に進めます。

手順1|場所とタイミングを選ぶ(1対1で、早めに)
まず、人前で言わないことです。 同僚や患者さんの前で注意されると、内容より「恥をかいた」が残ります。
タイミングは、できるだけ早く。 1週間前のミスを持ち出すと、相手は「ずっと見張られていた」と感じやすくなります。
忙しい時間に通りすがりで言うのも避けます。 3分でいいので、手が空く時に「ちょっといい?」と声をかけます。
手順2|「場面・行動・影響」の順に伝える
伝える時に使える型に「SBI」があります。 米国のリーダー育成の研修機関 CCL(Center for Creative Leadership)が紹介している型です。
- 場面(Situation): いつ・どこで
- 行動(Behavior): 見たままの事実。意見や人柄の評価は入れない
- 影響(Impact): その結果、何が起きたか
出典:Center for Creative Leadership「Use SBI (Situation-Behavior-Impact) to Inquire About Intent」(2025年)(2026年10月26日閲覧)
これは研究で証明された方法というより、研修の現場で使われている実務の型です。 ただ、「人より行動に向けて伝える」ことには、研究の裏づけもあります。
フィードバックの研究を集めて計算し直した論文では、607件の効果のうち、3分の1以上でかえって成績が下がっていました。 相手の注意が「仕事」から「自分という人間」に向くほど、効き目が落ちると考えられています。
出典:Kluger, A. N., & DeNisi, A.(1996)「The Effects of Feedback Interventions on Performance: A Historical Review, a Meta-Analysis, and a Preliminary Feedback Intervention Theory」Psychological Bulletin
多くは実験室での課題で、職場の叱責そのものを調べたものではありません。 それでも、言葉を選ぶ時の目安になります。
| 言いがちな言葉 | 場面・行動・影響で言い換えると |
|---|---|
| 何回言えば分かるの? | 今日の午前、薬の数を確認しないまま渡していたよね。患者さんが帰ったあと足りないと分かって、電話で謝ることになった |
| いつも雑だよね | 昨日の締めで、記入が2か所抜けていたよ。翌朝の人が確認に時間を取られていた |
| やる気あるの? | 今週、報告が2回遅れたね。そのせいで、次の動きを決めるのが遅れたんだ |
手順3|理由を聞いて、原因を一緒に探す
伝えたら、次は聞く番です。
「何があった?」「どこでつまずいた?」と、相手の考えを聞きます。
CCL は、SBI の後に本人の意図を聞く形も紹介しています。
同じミスが続く時ほど、本人の不注意だけでなく、やり方や仕組みに原因が隠れていることがあります。
でも、本人の確認不足なのは明らかなんですよね……。


そう見える時ほど、「確認しにくい流れ」になっていないかを一緒に見てみてください。私の職場でも、それで変わったことがありました。
私の最初の職場では、薬を集める時のルールが無く、記憶頼りでした。 そこで、すべての処方せんのコピーを取り、細かく書き込むことにしました。
書いたのは、似た名前の薬の注意、確認した人の名前などです。 取り違えと探す時間が減り、新人も早く覚えられました。
スタッフどうしが言葉を書き合ったことで、ミスも減りました。 人を責めるより、仕組みを見直すほうが、ミスは減っていきました。

手順4|次の一手を一緒に決めて、「ありがとう」で閉じる
最後に、次にどうするかを一緒に決めます。 上司が決めて渡すより、本人の口から案を出してもらいます。自分で決めたことのほうが、動きやすいからです。
そして、話してくれたことに「ありがとう」を伝えて閉じます。 ミスを報告してくれたこと、理由を話してくれたこと。そこにお礼を言います。
その後、直った行動を見つけたら、それも言葉にします。 「今日は確認の印、全部付いてたね。助かったよ」。これで1回の叱り方が終わります。
4つの手順のまとめ
- 1対1で、早めに、手が空く時に
- 場面・行動・影響の順に伝える
- 理由を聞いて、仕組みの原因も一緒に探す
- 次の一手を一緒に決め、ありがとうで閉じる
叱った後が大事|感謝で回す上司の毎週の会話
叱り方より大事なのは、叱らない日の会話かもしれません。 ふだんから話している上司の言葉は、注意も受け取ってもらいやすくなります。
先週「意味のあるフィードバック」を受けた人の80%は、熱意をもって働いている。米国の調査会社 Gallup はそう書いています。 ただ、約15,000人に聞くと、上司との最後の会話がとても意味があったと答えた人は16%でした。
出典:Gallup「A Great Manager's Most Important Habit」(2023年・2026年更新)(2026年10月26日閲覧)
Gallup が挙げる「意味のある会話」の中身は、承認や感謝、協力と関係、目標と優先順位、強みの4つです。 週に1回なら、15〜30分の短い会話で足りるとも書かれています。
調査の時点での関係で、話せば必ず熱意が上がる、という意味ではありません。 それでも、ふだんの「ありがとう」が、叱る日の土台になるのは現場の実感とも合います。

私は1年目から、相手のいいところを口に出し、感謝を先に伝えることを続けてきました。 大きな改善ができない時期でも、スタッフから「今まで気にかけてもらったことはなかった」と言われたことがあります。
ほめ方の具体的な型は部下のほめ方に、毎週の会話のネタは1on1で話すことがない時の質問リストにまとめています。

注意する日より、ありがとうを言う日のほうが多い。それくらいがちょうどいいと思っています。
叱り方とパワハラの線引き|迷った時の考え方
叱ることと、パワハラは別のものです。 ただ、言い方しだいで、その線を越えてしまうことがあります。
人格を否定する言葉や、仕事に必要な範囲を超えた叱責は、パワハラに当たることがあります。 人前で長く責める、大声で威圧する、ほかの人と比べてけなす。こうした形は避けておきたいところです。
でも、厳しく言わないと甘く見られそうで怖いんです。


厳しさは、声の大きさではなく「直すまで一緒に見る」ことで伝わると思っています。行動に向けて伝えれば、やさしい言い方でも十分届きます。
自分の叱り方が行き過ぎていないか不安な時、部下から相談された時は、一人で判断しなくて大丈夫です。国の無料の相談窓口があります。
総合労働相談コーナー(厚生労働省)の探し方です。
- 「総合労働相談コーナー」で検索する
- 厚生労働省のページを開く
- 都道府県ごとの一覧から、自分の地域の窓口を探す
上司自身が疲れている時は、厚生労働省の「こころの耳」というサイトも、「こころの耳」で検索すると見つかります。
よくある質問
何度言っても同じミスをする部下には、どうすればいいですか?
まずは仕組みを疑ってみてください。手順が決まっていない、似たものが並んでいる、確認する人があいまい。こうした原因が見つかることがあります。
そのうえで、場面・行動・影響で具体的に伝えます。
叱った後、気まずくなったらどうすればいいですか?
その日のうちか翌日に、ふだんどおりに声をかけます。直った行動を見つけたら「助かったよ」と伝えます。叱った後の一言が、関係を戻すきっかけになります。
年上の部下にも同じ伝え方でいいですか?
基本は同じです。人ではなく行動に向けて伝えるのは、年齢に関係なく使えます。言葉づかいで敬意を示すと、受け取ってもらいやすくなります。
まとめ|明日の朝、職場で変わること
叱り方で大事なのは、強さではなく向け先です。 人ではなく行動に向けて、場面・行動・影響の順に伝える。そして理由を聞き、仕組みを一緒に見直す。
最後は「ありがとう」で閉じる。 これを続けるうちに、叱る時間が、部下を責める時間から一緒に直す時間に変わっていくはずです。
もっと研究を知りたい人には、心理的安全性のつくりかたという本があります。 日本の職場に合わせて、言いたいことを言える職場の作り方を説明した本です。
明日の朝、もし部下のミスに気づいたら、まず「何があった?」から始めてみませんか? その一言が、部下がミスを報告しに来てくれる職場への、最初の一歩になるはずです。
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