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待合室から、怒鳴り声が聞こえてくる。新人で管理薬剤師になったばかりの私の職場では、それがめずらしくありませんでした。
1年目の私は、その声が聞こえるたびに調剤室を飛び出しました。誰よりも早くカウンターへ出て、頭を下げる。それが、管理薬剤師として私が自分で決めた役目でした。
怒鳴られるたびに足がすくみます。正直、カウンターに立つのがこわいです。

この記事では、薬局のクレームに向き合う時の初動と、スタッフを守る動き方が分かります。後半では、謝る範囲の考え方と、一人で抱えないための決めごとも整理しました。
結論:初動は「聞く・謝る範囲を守る・一人にしない」
先に結論です。クレーム対応で大事なのは、言い返す技術ではありません。最初の数分で、話を聞き切ることです。
初動で押さえたいのは次の3つです。
初動の3つ
- 相手の話を、さえぎらずに最後まで聞く
- 謝るのは「不快にさせたこと」まで。事実が分かる前に非を認めない
- 担当者を一人にせず、管理者がすぐ前に出る
そして、もう1つ大事なことがあります。薬の取り違えなど調剤の誤りが疑われる時は、話が別です。この記事の考え方よりも、薬局の手順と報告のルールを優先してください。

調剤の誤りは、お客さまの気持ちの問題ではなく、健康の問題です。決められた手順が先です。
1年目の私が「盾」になると決めた理由
私が新卒で配属されたのは、大きな病院の目の前にある門前薬局でした。1年目から管理薬剤師を任されたのに、マニュアルはありません。
薬剤師どうしの空気は冷えていて、みんな嵐が過ぎるのを待つように働いていました。
雑用ではなく「いちばんしんどい仕事」を拾う
新人の管理者が、どうやって信頼を得るか。私が選んだのは、誰もやりたがらない面倒な仕事を拾うことでした。
最初はトイレ掃除やゴミ捨てを手伝おうとしました。でも事務スタッフに「私たちの仕事がなくなります」と止められました。良かれと思ったのに、空回りです(笑)。
そこで気づきました。私が拾うべきだったのは、雑用ではありません。薬局でいちばんストレスがかかる、理不尽なクレームへの対応でした。

怒鳴り声が聞こえたら、真っ先にカウンターへ
それから私は、決めごとを1つ作りました。待合室で怒鳴り声が聞こえたら、誰よりも早くカウンターに出る。そして頭を下げて、薬剤師と事務スタッフの前に立つ。
最終的な責任は、管理者の自分が取る。その姿勢を、言葉ではなく行動で見せ続けました。
頭を下げるだけでなく、「たくさんうちの薬局を見ていただき、ありがとうございます」と感謝も伝えました。謝るだけだと、こちらが下でお客さまが上の立場になりがちです。感謝を添えると、本気で言ってくださっている方は、ゆっくりと態度が変わっていきました。
管理者が出ても、怒っている人は止まらないんじゃないですか?


すぐには止まりません。でも「この薬局は一人に押しつけない」と、スタッフには伝わります。
ただ、これは当時の私のやり方で、そのまま真似してほしい形ではありません。謝るのはこちらに落ち度があった所までにして、無理な要求には会社として「できません」と線を引く。
2026年10月からは、カスタマーハラスメントへの対策が事業主の義務になっています。前に出る役は、一人の我慢ではなく、職場の決まりに沿った役割です(後半の「スタッフを守る決めごと」で整理します)。
盾になって、職場はどう変わったか
盾になったのは、クレームを減らすためだけではありませんでした。スタッフが安心して働ける職場にするためです。
私はクレームの前に立つだけでなく、ほかの面倒も拾いました。冷めていた薬剤師たちの業務を自分から引き受ける。事務スタッフへの感謝を、行動で示し続ける。
すると少しずつ、薬局の空気がやわらいでいきました。
| 盾になる前 | 盾になった後 | |
|---|---|---|
| クレームの場面 | 誰が前に出るか決まっていない | 管理者の私が真っ先にカウンターへ出る |
| 薬剤師の空気 | 嵐が過ぎるのを待つように淡々と働く | 少しずつやわらいでいく |
| 職場の雰囲気 | ギスギスしている | 役員から「薬局の雰囲気が明るくなった」と言われた |
| 結果 | — | クレームの患者さんはほぼいなくなった |
最後は、クレームの患者さんがほぼいなくなりました。役員からも「薬局の雰囲気が明るくなった」と言ってもらえました。
※個人の経験です。クレームの数は、薬局の場所や患者さんの層でも変わります。

クレームが減ったのは、対応がうまくなったからだけじゃないんですね。

正直に言うと、私もそう思っています。事務スタッフが味方になり、薬剤師が本来の仕事に集中できるようになって、薬局がスムーズに回り始めた。その中で、クレームの患者さんもほぼいなくなっていきました。
初動でやること:聞く・謝る範囲・一人で抱えない
ここからは、今日から使える初動の流れです。あなたの薬局では、クレームの時に誰が出るか決まっていますか?
決まっていないなら、この順番を共有しておくだけでも、現場の負担は軽くなるはずです。

1. さえぎらずに、最後まで聞く
怒っている人は、まず「分かってほしい」と思っています。途中で説明を始めると、言い訳に聞こえやすいです。
相づちを打ちながら、最後まで聞きます。聞きながら、何に怒っているのかをメモしておくと後で役に立ちます。
- 待ち時間が長かった
- 説明が分かりにくかった
- 言い方が冷たく感じた
- 薬が違うのではないか
最後の「薬が違う」は、調剤の誤りかもしれない話です。これだけは、すぐ次の節の手順に切りかえます。
2. 謝るのは「不快にさせたこと」まで
謝ることは、負けではありません。ただ、謝る範囲は分けておきたいところです。
| 謝ってよいこと | その場で認めないこと |
|---|---|
| お待たせしたこと | 事実を確かめる前の「こちらのミスです」 |
| 不快な思いをさせたこと | 確かめていない原因の決めつけ |
| 説明が足りなかったこと | 返金や補償の約束(決める人が別にいる時) |
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」は、すぐ言えます。でも原因が分からないうちに「うちのミスです」とは言いません。
謝る範囲を分けるのは、ごまかすためではありません。事実を確かめてから、正しく謝るためです。
3. 担当者を一人にしない
クレームをいちばん重くするのは、一人で抱えることです。受けた人は、怒鳴られた声を家に帰っても思い出します。
だから管理者が前に出て、受けた人には少し下がってもらいます。終わった後に「大丈夫だった?」と一言かけるだけでも、気持ちはかなり違います。

前に出る役は、肩書きのある人がやると決めておく。それだけで現場は動きやすくなります。
調剤の誤りが疑われる時は、薬局の手順が先
ここだけは、この記事の「聞く・謝る」より優先することがあります。薬の取り違えや量の誤りが疑われる時です。
この場合は、相手の気持ちより先に、患者さんの健康を守る動きが要ります。だから、勤めている薬局の手順書とルールに従います。
- 薬局で決められた手順書を開き、その順番で動く
- 管理薬剤師や本部への報告ルールに従う
- 自分だけの判断で「大丈夫です」と言わない
- その場で分かったことと、まだ分からないことを分けて記録する
手順書が見つからない、どれが最新か分からない。そんな時は、まず管理薬剤師に聞いてください。

新人のうちは、手順書がどこにあるかも知らないです……。


それで大丈夫です。今週のうちに、場所と報告先だけ管理者に聞いておきましょう。
理不尽なクレームから、スタッフを守る決めごと
聞いても謝っても、おさまらない相手もいます。何度も同じことで怒鳴る、長い時間帰らない、スタッフを名指しで責め続ける。そんな時は、一人の我慢で乗り切ろうとしないでください。
あなたの薬局には、こんな時の決めごとがありますか? 無ければ、次の4つを話し合うところから始められます。
決めておく4つ
- 怒鳴り声が聞こえたら、誰が前に出るか
- どのくらい続いたら、本部に連絡するか
- 身の危険を感じた時は、ためらわず110番すること
- 対応した後、受けた人をどう休ませるか
ちなみに、お客さまからの著しい迷惑行為はカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれます。2026年10月からは、カスハラへの対策が事業主の義務になりました。厚生労働省は、会社が取り組むことをまとめた資料も出しています。
- 「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル 厚生労働省」で検索する
- 厚生労働省のページか、ハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」を開く
- マニュアルのPDFを開き、command+F/Ctrl+F で「対応方法」などの言葉を探す
職場で守ってもらえず、心も体もつらい時は、一人で抱えないでください。外の窓口に相談する道もあります。
- 「総合労働相談コーナー 所在地」で検索する
- 厚生労働省の「総合労働相談コーナーのご案内」のページを開く
- 都道府県の一覧から、勤め先のある県の労働局を選び、近くのコーナーの電話番号を確かめる
よくある質問
管理薬剤師がいない時間にクレームが来たら?
その時間にいる人の中で、いちばん経験のある人が前に出ます。誰が出るかを、シフトごとに決めておくと迷いません。終わったら、管理薬剤師に必ず共有します。
謝ったら、こちらのミスを認めたことになりますか?
「お待たせしたこと」「不快にさせたこと」への謝罪は、ミスを認めることとは別です。事実が分からないうちは、原因を決めつける言葉だけを避けます。
自分が怒鳴られた後、気持ちが切りかえられません
それは自然なことです。対応した後は、少し休憩を取る、誰かに話すことから始めてください。続く時は、職場の上の人に話してください。
職場で話しにくい時は、上の「理不尽なクレームから、スタッフを守る決めごと」の節にある3つの手順で、近くの総合労働相談コーナーを探せます。
まとめ:盾になる人がいる薬局は、空気が変わる
クレーム対応の初動は、聞く・謝る範囲を守る・一人にしない、の3つです。調剤の誤りが疑われる時は、薬局の手順と報告が先になります。
私は1年目に、怒鳴り声が聞こえたら真っ先にカウンターへ出ると決めました。それを続けるうちに、職場の空気が変わっていきました。

盾になるのは、管理者だけの仕事ではありません。「一人にしない」は、誰でも今日から始められます。
今日できることは1つです。クレームの時に誰が前に出るかを、次の朝礼か休憩の時に同僚と話してみてください。
