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面談では「やりたいことが見つかった」と言っていたのに……。本当は何が嫌だったんだろう。

「一身上の都合により」。 入って1年もたたない若手の退職届に書かれていたのは、この一行だけ。 こんな場面、あなたの職場でもありませんか?
退職の面談で聞いた理由に、どこか納得できない。 それには、ちゃんとわけがあります。 辞める人が口にする理由と、本当の理由は、ずれやすいからです。
この記事では、医療の職場の若手が辞める理由を、統計に出る理由と、上司には言われにくい理由に分けて整理します。 最初の3か月に上司ができることも分かります。研究の話と私の経験は、分けてお話しします。
私は堀口 健(Ken)です。1年目から薬局の管理職(管理薬剤師)を10年。 人事(採用面接)とマネージャー(他店舗の売上管理・スタッフの教育)も担当しました。
医療・薬局の若手が辞める理由の結論|口にする理由と本当の理由は別
先に結論です。 若手が言う理由と、本当の理由は別にあると考えておく。
統計に出やすいのは、心身の不調や「自分に合わない・自信がない」という理由です。 でも、本人が上司に言いにくい理由があります。 人間関係と、「この職場に受け入れられていない」という感覚です。
| 分け方 | 主な中身 | 上司に伝わりやすいか |
|---|---|---|
| 表に出る理由 | 心身の不調、適性や能力への不安、別の仕事への挑戦 | 伝わりやすい |
| 言われにくい理由 | 上司・同僚との人間関係、受け入れられていない感覚、誰からも声をかけられない | 伝わりにくい |
ただ、どの調査も「こういう傾向がある」までしか言えません。 「これをすれば若手が辞めない」という話ではない点は、先にお伝えしておきます。
それと、退職は働く人の権利です。 この記事は引き止めの話ではなく、辞めたくならない職場をつくる話です。

「本当の理由を聞き出そう」とするより、言わなくても伝わる距離を普段からつくる方が近道だと、私は考えています。
若手の離職はどのくらい?|医療・福祉は3年以内の離職が多め
医療・福祉は、新卒で入った人が3年以内に辞める割合が、全体より高めです。
2023年3月に学校を出て働き始めた人のうち、3年以内に辞めた割合です。 大学卒で31.2%、高校卒で36.9%でした。医療・福祉に限ると、大学卒で39.1%、高校卒で49.4%です。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者)」(2026年10月23日公表・2026年10月27日閲覧)

職場の人数でも差があります。 同じ資料で、5人未満の職場は高校卒61.3%・大学卒58.2%でした。 1,000人以上の職場は、高校卒24.4%・大学卒24.2%です。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者)」(2026年10月23日公表・2026年10月27日閲覧)

薬局やクリニックは、数人から十数人の職場が多いですよね。 あなたの職場は、何人くらいですか?
ただ、この数字は辞めた割合だけで、理由までは分かりません。 業種や雇われ方の違いも混ざっています。「小さい職場だから辞める」とは言えない点に注意してください。
小さな職場は、1人が辞めると残った人の負担がすぐに増えます。だからこそ、数字より先に「1人ひとりの様子」を見る意味があります。
統計の上位に出る辞める理由|心の不調と「自分に合わない」「自信がない」
管理する側が把握する退職理由では、心身の不調と、適性や能力への不安が上位に出ます。
日本看護協会の調査では、2024年度に新卒で採用された看護職のうち、8.4%がその年度内に辞めていました。 辞めた主な理由(いくつでも選ぶ形)は、次の表のとおりです。
出典:日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年)/労働政策研究・研修機構のウェブ記事による要約(2026年4月8日掲載・2026年10月27日閲覧)
| 年度内に辞めた新卒看護職の主な理由 | 割合 |
|---|---|
| 健康上の理由(精神的な病気) | 54.6% |
| 看護職としての適性への不安 | 46.6% |
| 看護の実践の能力への不安 | 44.2% |
| 上司・同僚との人間関係 | 27.0% |
| ほかの施設への関心・転職 | 23.0% |
出典:日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年)/労働政策研究・研修機構のウェブ記事による要約(2026年4月8日掲載・2026年10月27日閲覧)
ここで大事なのは、答えた人です。 理由を答えたのは辞めた本人ではなく、病院の看護部長などでした。 つまり「管理する側から見えた理由」です。
人間関係は4番目なら、そこまで多くないってことですよね?


そう読みたくなりますよね。でも、本人が上司に言わなかった理由は、この数字に入っていないかもしれません。
「自信がない」「向いていない」という言葉の裏に、何があったのか。 そこを考えるのが、次の節です。
上司には言わない本当の理由|人間関係と「受け入れられていない」感覚
本人が会社に伝えない理由の上位には、人間関係があります。
エン・ジャパンの調査では、退職した経験がある4,658人のうち、54%が「会社に伝えなかった退職理由がある」と答えました。 伝えなかった人の本当の理由の1位は「人間関係が悪い」で46%でした。
出典:エン・ジャパン「本当の退職理由」調査(2024年8月公表・2026年10月27日閲覧)
| 同じ調査で分かったこと | 答え |
|---|---|
| 会社に伝えた理由の1位 | 別の職種にチャレンジしたい(22%) |
| その理由は、本当の理由では | 9位(6%) |
| 伝えなかったわけの1位 | 話しても理解してもらえないと思ったから(46%) |
出典:エン・ジャパン「本当の退職理由」調査(2024年8月公表・2026年10月27日閲覧)
「別の仕事に挑戦したい」って、前向きな理由だと思って送り出していました……。


そう受け取るのは自然だと思います。前向きな理由の方が、角が立たずに言いやすいんですよね。
この調査は医療に限らない全業種の答えで、求人サイトの利用者にかたよっています。 それでも、面談で聞く理由と本当の理由はずれやすいことは、知っておいて損はありません。

医療の職場の研究もあります。
看護師どうしのいじめや嫌がらせと、「辞めたい気持ち」の関係を調べた分析です。 14本の研究・看護師6,472人分をまとめています。 弱めですが、いじめが多いほど辞めたい気持ちも強い、という関係がありました。
出典:Zhang, Y., Yin, R., Lu, J., ほか(2022)「Association between horizontal violence and turnover intention in nurses: A systematic review and meta-analysis」Frontiers in Public Health
対象はカナダ・アメリカ・韓国・中国などで、日本のデータは入っていません。 実際に辞めたかどうかや、どちらが原因かまでは分かっていない点も添えておきます。

人間関係の悩みは、本人が「言ったら角が立つ」と飲み込みやすい理由です。言わないのは、あなたを信用していないからとは限りません。
詳しくは、辞める前の小さな変化をまとめた医療・薬局のスタッフが辞める前兆7つも参考にしてください。
1年目に「歓迎されない職場」にいた私が見たこと
ここからは、私自身の話です。 私は1年目から、薬局の管理職として配属されました。 その職場は、正直に言うと「歓迎されている」とは思えない場所でした。
マニュアルは無く、「見て覚えろ」の職場でした。 分からないことを先輩に聞くと、こう返ってきました。
「管理薬剤師なのに、そんなことも知らないんですか?」 「これぐらい知っててもらわないと困ります」
元気に挨拶をしたら、「挨拶がうるさいです」とも言われました。 朝から、けっこう辛かったです。 今は、受け入れられなくても、相手の事情が理解できたら許せる、と思っています。

私が踏みとどまれたのは、「自分原因論」という考え方を持っていたからです。 何か問題があっても、まず自分に原因がなかったかを考える。 分からなかったことをメモして、家で毎日復習しました。
じゃあ、若手にも「自分原因論でがんばれ」と言えばいいんですか?


いいえ。これは私が自分に向けて使った考え方です。上司が若手に求めるものではないと思っています。
研究でも、入ったばかりの人の受け入れ方は大事だと考えられています。 新しく入った人についての70の調査をまとめた分析があります。 次の3つの感覚が、職場の迎え方と、満足や定着とをつないでいる形が支持されました。
- 自分の役割が分かっている
- 自分にもやれるという自信がある
- 周りに受け入れられている
出典:Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., & Tucker, J. S.(2007)「Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods」Journal of Applied Psychology
この分析も、主に関係の強さをまとめたものです。 「歓迎すれば必ず辞めない」とまでは言えません。
でも、私の1年目は3つとも欠けていました。 マニュアルが無いので、役割が分からない。聞けば否定されるので、自信が育たない。
挨拶さえ否定されるので、受け入れられている感覚もない。 私は自分原因論で踏みとどまれました。でも同じ環境なら、辞める人がいても不思議ではないと今は思います。

新人が「向いていない」と感じる時、3つのどれかが欠けていることがあります。本人の弱さだけで片づけない方がよいと、私は考えています。
最初の職場では、私自身の失敗もあり、10人以上の薬剤師・事務が辞めました。 そこから少しずつ変えて、最後の2年は辞める人がいませんでした。
転職後に任された店も、着任前は事務スタッフが次々に辞めていた職場でした。 5年後には、産休や育休の代わりを、スタッフが知り合いを紹介して埋めてくれる職場になりました。
若手が辞める前に上司ができること|最初の3か月の5つのチェック
若手のために上司ができることは、最初の3か月に「役割・自信・居場所」をそろえることです。
アメリカで、自分から辞めた717人に聞いた調査があります。 42%が「上司か会社が何かしていれば辞めずに済んだ」と答えました。 45%は、辞める前の3か月間に、仕事の満足や今後の話を上司などから一度も持ちかけられていませんでした。
出典:Gallup「42% of Employee Turnover Is Preventable but Often Ignored」(2024年・2026年更新)(2026年10月27日閲覧)
日本の医療の職場に当てはまるかは、確かめられていません。 それでも、「声をかけられないまま辞めた人」が多いという数字は重いと、私は受け止めています。

| チェック | 何をするか | そろうもの |
|---|---|---|
| 1. 仕事の一覧を渡す | 最初の1か月で覚えることを紙1枚にする | 役割 |
| 2. 聞ける相手を決める | 「この人に聞けばいい」を1人決めておく | 居場所 |
| 3. できたことを伝える | できた作業を、その日のうちに一言で伝える | 自信 |
| 4. 紹介の場をつくる | 初日に、スタッフ全員に名前と役割を紹介する | 居場所 |
| 5. 月1回話を聞く | 仕事の満足や困りごとを、上司から聞きに行く | 3つ全部 |
私の1年目の職場には、1番と2番がありませんでした。 「何を覚えればいいか」の一覧が無く、聞くと否定される。今振り返ると、この2つから整えるのが近道だと考えています。
あなたの職場では、5つのうちいくつそろっていますか?
あの職場で私が大事にしたのは、職場の「面倒くさい」を拾うことでした。 患者さんからのきついクレームには、私が先にカウンターに出て対応しました。 スタッフが働きやすい環境をつくることが、自分の仕事だと考えたからです。
今日からできること
次の若手が入る前に、1つだけ準備しておく。
- 最初の1か月で覚える仕事を、紙1枚に書き出す
- 「この人に聞けばいい」相手を1人決めておく
- 今いる若手には、今週中に「最近どう?」と声をかける
話を聞く時の質問に迷ったら、1on1で話すことがない時の質問リスト20が使えます。 職場全体で何を整えるかは、医療・薬局の離職率を下げる方法で5つの条件に分けて整理しています。
よくある質問
退職面談で、本当の理由を聞き出すべきですか?
無理に聞き出す必要はないと思います。 さっきの調査でも、伝えなかったわけの1位は「話しても理解してもらえないと思ったから」でした。 本音は、辞めると決める前の普段の会話の方が出やすいと私は考えています。
若手が「向いていない」と言った時は、どう受け止めればいいですか?
まずは、その気持ちをそのまま受け止めてください。 そのうえで、役割が分からない・聞ける人がいないなど、職場の側で整えられることが無いかを一緒に見直すのがおすすめです。
若手が心の不調を抱えていそうな時は?
上司が診断のようなことを言うのは避けてください。 厚生労働省の「こころの耳」には、働く人と職場向けの相談窓口がまとまっています。
- 「こころの耳 厚生労働省」で検索する
- 厚生労働省の働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を開く
- 相談窓口の案内のページを開き、電話・SNS・メールの窓口を確かめる
まとめ|若手が辞める理由は、言葉の外にある
若手が口にする理由と、本当の理由はずれやすい。 統計の上位に出るのは、心身の不調や「自信がない」「向いていない」という理由です。 でもその裏に、人間関係や「受け入れられていない」感覚がひそんでいることがあります。
だから大切なのは、辞めると言われてから理由を聞くことではありません。 最初の3か月に「役割・自信・居場所」をそろえておくことです。
上司としての関わり方をもっと深く知りたい人には、まず、ルールを破れという本があります。 ギャラップ社の調査をもとに、優れたマネジャーが部下とどう向き合っているかをまとめた本です。
明日の朝、いちばん新しいスタッフに「困っていることはない?」と一言だけ声をかけてみてください。 その一言が、言いにくい本音を話せる関係の、最初の一歩になります。
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